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「デザイン×デジタル」で誕生したイノベーション 未来の商品開発はこう変わる

2015.03.09
3Dバーチャルモデルの画像を見ながら、布地の柄の大きさを自由に拡大・縮小したり、自分にぴったり合うサイズにしてから発注できる。

3Dバーチャルモデルの画像を見ながら、布地の柄の大きさを自由に拡大・縮小したり、自分にぴったり合うサイズにしてから発注できる。

服の風合い動きまでを精緻に再現

スマホの画面上で、さながら自分を着せ替え人形のようにして似合う服を探し、ピッタリのサイズで注文する。そんな世界がすでに現実になりつつある。これを可能にしたのが、デジタルファッションが開発した3次元パターン作成ソフトだ。

自分そっくりの3D画像に、気に入った柄のワンピースを重ね、指の操作で体のサイズに合わせたり、柄のデザインを小さくしてみたり、と画面操作は思いのまま。あっという間に自分仕様のワンピースへと変わっていく。出来上がった画像データは寸法の数字に変換された後、型紙のデータに落とし込まれていく。

「家電や車、建築の世界ではすでにコンピュータを使って思いのままに3Dでデザインできるソフトがあるのに、ファッションの分野は感性と創造の世界だからとIT化が遅れていた。じゃあ、われわれが作るしかない、と」と森田氏。

感性というあいまいな物差しで良し悪しを測る前提には、画面上に映された服が実物の素材が持つ風合い、色、フィット感までを忠実に再現していなければならない。同社がつくりだす映像では、使う材料ごとに糸・繊維の柔らかさ、光を受けたときにできる色の陰影、身体へのまとわりつき方まで精緻に再現している。

バーチャル試着。大型モニターに映る自分の姿に、着てみたい服が合成される。サイドや後ろ姿も確認が可能。

バーチャル試着。大型モニターに映る自分の姿に、着てみたい服が合成される。サイドや後ろ姿も確認が可能。

こうした同社のサービスを生み出すコア技術は3つ。対象物を正確にデータとして取り込んでいくための画像認識・画像処理の技術。布の品種、質量や硬さ、しわの数等、風の動きによって服がどう振る舞うかを予測するシミュレーション技術。そしてこれらに基づいたシステム設計により、今までにない高品質、高質感の画像を生成するコンピュータグラフィックス技術だ。

この技術を活用し、アパレル業界向けにスマホ、パソコン画面上で着せ替えが出来る「着せ替えソフト」、布の光学特性までを再現し自動車用シートの柄をシミュレーションするソフト、などがすでに多くの企業に採用されている。

オーダーメードの大量生産へ

同社の事業を束ねる概念として森田氏が掲げるのが「ファッション・オン・デマンド」だ。「あのドレスがほしいと思ったときに、自分の体に着せるだけでなく、モデルの様にその服を着て歩かせてみて似合うか似合わないかが判断でき、気に入ればそのまま注文できる。今の体型では着ることが出来ない服であれば、あと何kgやせなさい、そのためにはこういう食事をしなさいといった情報も出てくる」。

森田氏が体現しようとする世界は、ITによって可能になった「Btoi」ビジネスを先導する役割も担っている。「iはindivijual(個人)のi。それぞれの好み、体型に合わせた究極のカスタマイズがITによって可能になればビジネスは限りなく広がる」。

従来のビジネスの常識であれば、大量生産大量消費型ビジネスの対極を進めば進むほど消費者にとっては高価格を感受しなければならなかったはずだが、森田氏はその概念さえも覆そうとしている。

「最先端のデジタルプリンティング技術で柄を印刷する機械も、サイズの異なる多くの型紙を一度に裁断する機械もすでに日本にあります。われわれがめざすのはオーダーメードの大量生産。その人だけの服が手軽に入る世界を実現できてこそIT化の意味がある」。そして、その行き着く先は「メイド・イン・ジャパン」の復権だ。

ドレスを着用した人間の動きに合わせてシルエットや布地の光沢がどう変化するのかをシミュレーションできる。

ドレスを着用した人間の動きに合わせてシルエットや布地の光沢がどう変化するのかをシミュレーションできる。

素材のデータベースであらゆる商品の開発に

デジタルファッションはもともと東洋紡の研究所がスピンアウトして2001年に設立された会社だ。だが、研究開発指向が強いために収益が安定せず、2009年に資本関係を再構築し、再スタートを切った。住友商事のグループ会社出身の森田氏はその際、東洋紡出身以外の初の社長として新たに舵取りをすることになった。その後フットワークの軽さで多くの人、会社を巻き込み、事業化に目星をつけてきた。

「もともとアパレル産業で働いていたこともあり、繊維産業の復権のツールとしてデジタル化がキーワードになると確信していた。デジタルを使って広義の意味でファッション業界を変え、日本の繊維産業を再び世界に誇れるものにしたいという志に多くの人が賛同してくれた」。

また、森田氏は現在、ISO(国際標準化機構)TC133で日本代表のエキスパートとして「3Dバーチャルファッション」の日本提案を推進している。昨年12月には新たにBtoiビジネスを推進する販売企画会社、「クチュールデジタル株式会社」も設立。映像制作、化粧品通販や3Dプリンター、ITジャーナリスト等、各業界の第一人者から出資を得てさらなる事業の広がりを視野に入れる。

「デジタルファッションにはさまざまな素材のデータベースが集まっている。これを応用すれば携帯カバー、カバン、アクセサリー、自動車まで事前に超リアルなシミュレーションをし、3Dプリンター等で試作をし、検証しながら短期間で商品化に導くことができる」。森田氏が長年夢に描いてきた世界はもう手に届くところまで来ている。

代表取締役社長 森田 修史氏

代表取締役社長 森田 修史氏

デジタルファッションイラスト

(取材・文/山口裕史)

デジタルファッション株式会社

代表取締役社長

森田 修史氏

http://www.digitalfashion.jp/

資本金/100百万円 設立/2001年 従業員数/20名 事業内容/コンピュータに関するソフトウエア、ハードウエアの開発、販売。コンピュータグラフィックを含む服飾に関するデザイン及びそのコンサルティング。