【其の十三】予測困難な化学反応をコントロールする、化学品メーカーならではのリスクとは?
自然災害や感染症、セキュリティ事故などへのリスクマネジメントの一策として策定する企業が増えているBCP(事業継続計画)。重要なのはわかるけれど、実際どうやって作ったり使ったりするの?とわからないことだらけな方も多いハズ。このコラムではそんなBCPの策定・運用に取り組む大阪の中小企業のエピソードをご紹介します。
予測困難な化学反応をコントロールする、化学品メーカーならではのリスクとは?
明友産業株式会社はパラトルエンスルホン酸を製造する化学品メーカー。中間財のため聞き慣れない名前だが、私たちの暮らしに近いところでは、キッチンや浴室で使う洗剤の原料として消費財メーカーに使用されている。洗剤に入っている成分を均一に混ぜ、配合安定性を高めるための物質だ。また、触媒として化学・農薬・医薬などのメーカーなどでも使用されている。
そんな同社がBCP策定に着手したのは3年前。「お客さまの多くからBCPの必要性を指摘されるようになりました。BCPを策定していなければ、サプライヤーとして認められにくい風潮になってきたように感じています」と代表取締役常務の西口氏はきっかけについて話す。
同社の工場は和歌山市にある。「和歌山は南海トラフの直撃を受ける地域といわれています。当社の工場は和歌山にひとつだけ。しかも海抜が低く、約50分で津波が到達すると予測されているところです。そのような場所でどう事業を継続していくのか」と西口氏。まず、地震を想定し、劣化診断に基づいて古くなった建屋を補強。今後は津波や集中豪雨の対策として、電源を浸水しない位置に移すことなどを検討している。その中で同社は化学プラントの難しさに直面することになる。
「困難だなと思ったのは、地震で電気が止まった時にタンク内の原料がどのような化学反応を起こすのかわからないこと」。そう話すのは取締役営業兼生産部門統括の岩本氏。タンク内の状態は制御盤で確認できるものの、釜や配管の中を目で見ることはできない。製造を再開しようにも、中の状態を確認できないまま電源を入れると、思わぬ化学反応を引き起こす危険性がある。化学品ならではの難しさに、岩本氏は「地震はいつ起こるかわかりませんが、工程の中で危険度の高い時間は把握できる。そのタイミングを予測してケース別にマニュアルを整備するしかない」と対策の方針を立てている。
また、同社はBCP策定にあたり、供給責任を重く受け止めている。実はパラトルエンスルホン酸を生産しているのは国内で2社だけ。海外製品がわずかにあるものの、シェアの多くは国内の2社が占めている。つまり同社の生産が途絶えると、最終製品のメーカーの事業継続にも大きな影響を与えてしまう。そのため、まず、1か月分の出荷量を在庫として持っておくことに。そのうえで「サプライチェーンを維持し、最終製品の供給が途絶えないように、当社からしか原料を買っていないお客さまへの優先供給や、代替品として提案できる海外製品の有無の調査を進めている」と西口氏は話す。
今後の課題はなにか。「社内にBCPの概念を浸透させて、皆に興味を持って取り組んでもらうことです」と西口氏。重いイメージがつきまとう有事の対策を平時からいかに積極的に準備できるか、既にさまざまな取り組みを行っている。社員が講師となり防災に関するアプリをスマホにインストールして被害の規模を想像したり、南海トラフを想定した動画を見たり。最近ではあまり見かけなくなった自宅近くの公衆電話の場所を各自確認して皆で171災害伝言ダイヤルの使い方を練習した。救急救命の講習を受けて資格を取った社員がAEDの講習も行った。
「一つひとつの取り組みは小さくても、積み重ねることによって自信がついていく。気候変動による災害発生頻度の増大を考えると現代は災害と隣り合わせ。完全に防ぐことは出来ないが、準備をした上で、普段から身近な人を思いやる人間関係が災害を最小限にして、未然に防ぐことにも繋がると思います。日常が本当に大切。自宅での備えも含めて、皆の意識は強くなってきたと思います」。
(取材・文/荒木さと子)
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