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“音を届ける場所”が夢を育てる――ミュージシャンに寄り添う場の可能性

2025.06.09

大阪を中心に、京都、神戸、名古屋の8か所で音楽スタジオを営む株式会社ワイドウィンドウズ。CDをつくりたい、ライブを開催したい、機材を借りたい、映像で発信したい――そんなミュージシャンのあらゆるニーズに寄り添うように周辺サービスを広げてきた。「根底にあるのは、『お客さまの喜びを自身の喜びにする』という理念。ただサービスを提供するのではなく、目的や課題に応じて最適な提案をし、共にゴールをめざす姿勢を大切にしてきた」と広報部長の友松氏は言う。

広報部 部長 友松亮平氏

各スタジオには「よしひこ君」なる人形が置かれている。どこからどう見ても、歌手でタレントの円広志氏ソックリ。そう、創業者は円氏(本名は篠原義彦氏)なのだ。円氏が第1号の「スタジオ246」を大阪・神山町に開設したのは、「夢想花」の大ヒット後、次のヒットに恵まれず失意のうちに大阪に戻った1981年のこと。「246」の名は東京のど真ん中を走る国道246号線に由来する。「才能がある人は東京へ進出する。音楽を通じた夢のスタート地点でありたい」と、自らを奮起させるとともに、音楽スタジオをアマチュアミュージシャンの登竜門として位置づけた。

この空間で音楽が生まれ、表現が育まれていく。

音楽スタジオといえば、とがった無愛想なミュージシャンが受付に立ち、入りづらいイメージがあった時代。そこで同社は丁寧な対応を心がけ、音のクオリティにも徹底してこだわった。従来の音楽スタジオのイメージを覆すそうした姿勢が評価され、クチコミを中心に利用者が広がっていった。

音のバランスや質感を細やかに調整するエンジニアの仕事が、理想の音づくりを支えている。

しかし、大きな逆風にもあった。新型コロナウイルス感染症の感染拡大である。とりわけ音楽スタジオやライブハウスは「密」な場と見なされ、緊急事態宣言発令中は営業を中止せざるを得ない日が続いた。「このまま事業を続けられるのか」と多くのスタッフが先行きに不安を抱える中で、円氏は「不退転の覚悟」という危機感に裏打ちされたメッセージをスタッフに投げかけた。そして、賞金100万円のビデオコンテストを企画したほか、映像配信や音源のリモートミックスなど新たな試みを次々に導入。「映像配信は企業からのニーズも増えており、コロナ禍をきっかけに事業の幅が広がった」と振り返る。

音楽スタジオ業界を取り巻く環境は刻々と変化しつつある。若い世代の軽音活動は増えているものの、少子化の進行や機器の進化により、ミュージシャン自身がミキシングやレコーディングを行うケースが増えている。「スタジオ周辺業務だけでは先細りになりかねない」と危機感を抱いた円氏の発案で、今年4月からスタートしたのがオンラインレッスンの場「246音塾(おとじゅく)」だ。これは、レコーディングにおけるミックスダウンやマスタリングをマンツーマンで学べるサービスで、初心者から上級者まで対応できる内容をめざす。初回は「歌がオケになじむボーカルミックス」をテーマに実施し好評だった。「これからは技術指導やアドバイスを含めたサポート型のサービスが求められる。これまでスタジオ周辺サービスで培ったエンジニア技術を活かし、リアルとオンラインを組み合わせ新たな価値を創出していきたい」と友松氏。

音楽に集中できる環境は受付の安心感から始まる。ここもまた夢を支える場所のひとつ。

これまでに「スタジオ246」からは、さまざまなバンドが巣立っていった。同社のミッションは「とんでまわって未来をハッピーに」。ミュージシャンたちが「夢の中へ飛んでいく」のをこれからも応援していくつもりだ。

(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)

株式会社ワイドウィンドウズ

広報部 部長

友松 亮平氏

http://widewindows.com

事業内容/音楽スタジオの運営とそれに付随する周辺サービス