【飲食店開業への道】憧れの醸造所&ビアバーと地元商店街の活性化に挑戦

一時期はシャッター通りだったが、現在は個性的なお店が並ぶ鶴見区の放出栄町商店街に、クラフトビール醸造所を併設したビアバーがある。「クラフトビールは敷居が高いイメージがありますが、気軽に入って交流してもらえるスタンディングスタイルにしました。副原料のハーブや果実、スパイスなどで変わる味や香りを楽しんでほしい」と大迫氏。

ビールがモチーフのパッチワークが可愛い暖簾をくぐって店内へ。客層は20代~70代と幅広く、ひとりで訪れる女性も多い。
前職は映像関係の仕事だったが、もともと大のビール好き。個人経営のブルワリーが日本にいくつもあると知り、何社か見学するうちに興味を持った。そんな時期にコロナ禍となり、在宅勤務で街の静けさに寂しさを感じたという。「健康なうちに好きなビールを作りたいという気持ちと、地元の放出を盛り上げたいという思いが強くなりました」と、42歳で開業を決意した。

注いでいる様子がお客さまからよく見える位置にこだわってサーバーを設置した。
飲食店の経験がなかったため相談した行きつけの店主が、大阪産業創造館による飲食店開業プログラム【あきない虎の穴】のOBで、「経営ならここで学べ」と教えてくれた。すぐに申し込み、座学や研修を通じて、実践的なオペレーションや経営ノウハウを学んだ。

常時6種類のクラフトビールのほか季節限定のビールも用意。訪れる度に新しい味わいに出会える。(左上)/クラフトビールと相性の良いおつまみやフードメニューが充実。(左下)/ガラス越しにタンクや作業している様子が見える醸造所。(右)
開業まで一番苦労したのは酒類製造免許の申請で、審査が通るまで1年かかった。膨大な資料が必要な上、申請時に立地や資金繰りの確保も必須だったため、先に融資の取り付けを行ったという。「放出栄町商店街の再生プロジェクトが始まった頃に参加できたので立地は早くに決まりましたが、免許申請や融資に必要な資料作成は本当に大変でした。先輩や講師のアドバイスがものすごくありがたかったです」。

落ち着いた雰囲気の店内。
製造技術は、全国から弟子が集まる岡山の「吉備土手下麦酒」の門を叩き、1年修業して身につけた。オープンの3か月前に製造免許が交付され、ようやくクラフトビールの開発に着手する。「苦み控えめで飲みやすいビールにしたいという構想はありました。特産品はないけれど、放出(はなてん)にちなみ、花(はな)の香りがするハーブをブレンドした『花天エール』を作りました」。

華やかなローズの香りに爽やかなレモングラスやスパイスを使った「花天エール」は、お店を代表する一杯。「インターナショナル・ビアカップ(IBC)2025」のボトル・缶部門ハーブ&スパイスで銀賞を受賞した。
オープン後の1か月は順調だったが、リピートにつながらず苦戦する。「メニューの改良はもちろん、英会話の先生やお坊さんなどのお客さんの協力を得て定期的にイベントを催し、来店につなげていきました」。さらに、商店街で開催する「放出ビアフェス」を企画して奔走。「初めてだったのでお客さんが来るかわかりませんでしたが、師匠や弟子仲間、先輩のブルワリーが快く協力してくれました」。結果は2日間で4,000人が訪れる大盛況。その後も年2回のペースで継続している。

「飲食店を志す同期や先輩、修業先の師匠の元でたくさんの作り手と出会えたことが財産になった。開業には熱意と人とのつながりが大切」と大迫氏。商店街でのビアフェスが評価され「第17回大阪市あきないグランプリ」でグランプリを受賞した。
「もっと多くの人にクラフトビールの美味しさを届けたい」と、今後は本格的に瓶や樽の小売りに力を入れるため、製造スタッフの育成を行うなど、新たな目標に向けて取り組んでいく。

(取材・文/三枝ゆり 写真/福永浩二)
【 開業資金 】 1,600万円
日本政策金融公庫から800万円を借入れ、大阪産業局の設備投資支援(小規模企業者設備貸与制度)から800万円のリースを受ける。
【 立地選定 】
地元の放出に出店することは決めていた。偶然、飲み仲間が放出栄町商店街再生プロジェクトの会長で、地元やクラフトビールへの思いに共感してもらい初期から参加。醸造所とビアバーを併設できる14坪の角地に決めた。
【 店舗デザイン・設備 】
製造設備は全自動にすると高額になるため手動を選び、費用を抑えた。できるだけお客さまのスペースを広くするため、醸造所は6坪と最低限にした。ゆっくり飲めるよう落ち着いた内装に仕上げ、壁はDIYで味がある雰囲気に。
【 開業までに要した期間 】 1年7カ月

【 「あきない虎の穴」担当者からのコメント 】
「虎の穴」の卒業生経営者からの紹介で初めて会った時の大迫さんの第一印象は、初期コストが大きいブリューパブを経験もなく始めたいという相談だったこともあり、「大丈夫かな?」でした。しかし、着実にアドバイスを実行し、融資や設備貸与の申請など、開業に向けて先行して行動されていたのと、出店場所が商店街再生プロジェクトの一環で街全体が盛り上がる可能性があるし面白いかも!と思うようになりました。「放出ビアフェス」も盛況のようですし、放出に欠かせないお店の1つとなることを期待しています!(大阪産業創造館 創業支援チーム 浜田 哲史)

【 あきない虎の穴 】https://www.sansokan.jp/tora
株式会社祝日麦酒
代表取締役
大迫 和秀氏
https://www.instagram.com/shukujitsu_bakushu
●事業内容/クラフトビール醸造所・スタンディングビアバー経営 ●座席数/店内14席、テラス8席 ●開業日/2023年4月29日









