【飲食店開業への道】中国の麻辣湯を広めたいと日本人女性が開いた専門店「無限麻辣湯」
麻辣湯(マーラータン)とは、多彩なスパイスを効かせた中国発祥のスープ。春雨や野菜などの具材を煮込んだ薬膳スープが健康や美容にいいと日本でも人気が高まっている。
南海なんば駅から徒歩5分。日本人女性がつくる「無限麻辣湯」のスープは、化学調味料を控えたスパイスや国産の生野菜を使用するこだわりで、好きな辛さと約50種類の具材からトッピングを選べるのも楽しい。
中国在住時に麻辣湯に出合い、その魅力にはまった橋本氏。趣味で本場の麻辣湯について学び、試作を繰り返したという。急きょ帰国することになり、「麻辣湯を日本で広めるために専門店を開きたい」という気持ちが強まった。
当時の日本には「麻辣」という言葉が浸透していなかったため、大都市で中国人が多い大阪のミナミで出店しようと決めた。しかし、麻辣湯に使うスパイスの多くが日本では手に入らず、仕入れルートを探すだけで一苦労。「納得する味をつくり、物件をみつけて内装工事を終えたら、1,000万円あった預金残高が100万円ほどになって焦りました」。
開店後はスタッフの教育に苦労した。スタッフ自身が麻辣湯のことを知らないため、描くコンセプトを理解してもらえない。「自分と同じレベルのこだわりや意識を求めても、無理なことだとわかりました(笑)」。
その後順調に客足は増え、なかでも具材を選ぶスタイルや季節の野菜、薬膳スープに魅力を感じてくれる女性客が多かった。そこで、店舗ロゴや看板のデザイン、店内を女性好みのデザインに一新。スタッフユニフォームも揃え、全体の雰囲気を統一したことで、店のコンセプトがスタッフにも伝わりやすくなった。
コロナ禍もあり昨年には、袋詰めにした具材が並ぶショーケースをなくしてスタッフの作業を軽減。スマホでオーダーできるシステムも導入した。「ショーケース撤廃は大きな決断でしたが、人手不足で一時休業まで追い詰められたので。常連客から、店を続けてくれてありがとうと言われたときはうれしかったですね」。
実は橋本氏にとって店舗経営は第一歩であり、商品開発を通して麻辣湯をさらに広め身近な食べ物にしたいと考えている。お店の味を再現した「麻辣湯スープ」は通販サイトやセレクトショップなどでも販売され、評判は上々だ。
「店舗が軌道にのったら人に任せて、自分は新規事業に注力したいと思っていましたが、なかなか難しいですね」と話す橋本氏。だが、麻辣湯ファンが徐々に増えていることは肌で感じており、「麻辣湯のおいしさを広めたい」という熱い想いは決して冷めることはない。
(取材・文/花谷知子 写真/福永浩二)
【 開業資金 】
自己資金が500万円、日本政策金融公庫からの融資金が500万円。借入申込の必要書類の書き方を教わった大阪産業創造館 経営相談室の担当者から「限度額ギリギリまで借りたほうがいい」と言われて怖々ながらもそうしたが、いまでは感謝している。
【 立地選定 】
中国から帰国し、夫の仕事の都合ではじめて大阪に来たが、人口が多く中国人の多いこの地なら開業できるかもと感じた。自分が暮らすエリアに近いミナミで物件を探し、南海なんば駅から徒歩5分の好立地で手頃な家賃の物件に決めた。
【 店舗デザイン・設備 】
最初は自分の考えたデザインの看板と内装でオープン。5年後にプロのデザイナーに依頼し看板やロゴのデザインを一新し、店内も女性向けに改装。おしゃれな雰囲気になったことで、ラーメン店と間違われることが激減した。
【 開業までに要した期間 】
飲食店の経験がなかったので開業前にアルバイトを1年間経験。食品衛生管理責任者の資格を取得してから本格的に動き出し、8カ月後にオープン。日本で手に入らないスパイスの仕入れルートの確保や味の決定に時間がかかった。
【 「あきない虎の穴」担当者からのコメント 】
「虎の穴」受講中に「ラーメンと間違えられるのが悩みなんです」と話していた橋本さん。実際にお店に行ってみたら超イイお店でビックリしたのを覚えています。その後ブランディングやオペレーションを一新し、念願だった販売用のスープを開発するなど着々とご自身の想いを具現化されてます。一度食べると癖になる味なので、このまま順調にリピーターが増えていけば、麻辣湯が市民権を得る日もそう遠くないかもしれません。とはいえ、中華麺のトッピングは今も必須ですけどね(笑)。(大阪産業創造館 創業支援チーム 浜田 哲史)
【 あきない虎の穴 】https://www.sansokan.jp/tora