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―次の“飛躍”へ― 父の技術を世に問う 双子アトツギの覚醒

2026.02.09

家業に戻ることなど一切考えたことがなく、お互いに好きな道を歩んでいた双子の兄弟、誠氏と豊氏。しかし気がつけば、家業に相前後して戻り、合流することとなった。ものづくりで持ち前のセンスを発揮する誠氏と、唯一無二の技術を伝道する術に長けた豊氏。それぞれの得意分野を掛け合わせることで、家業は今、飛躍前夜を迎えている。

分け隔てなく人と接し柔和な誠氏に対し、冷静で弁が立ち行動力を持つ豊氏。対照的な性格の2人だが、「家業を継ぐつもりは全くなかった」という点では一致していた。社会に出てからは、誠氏が不動産会社でSNSによる情報発信を担当。豊氏はスタートアップ企業でインターン生を企業に紹介する仕事に携わり、それぞれにやりがいを感じながら働いていた。

専務取締役 桐島誠氏

母親に声を掛けられ、先に家業に戻ったのは誠氏だった。「自分がやったことがすぐ後発にまねされ、面白みを感じなくなっていた頃でした」。家業に目を向けてみると、父親が独自に開発した、“誰にもまねできない”クロムフリーのアルマイト技術が、誠氏の目には輝いて見えた。アルマイトとは、アルミに耐食性と装飾性を加える表面処理技術の一つ。前処理として行われる電解研磨は、化学研磨に比べ美観に優れるが環境に負荷を与える六価クロムを使う難点があった。父親はそれを使わない技術を独自に編み出していた。誠氏はアルマイト加工の現場に従事しながら、従来主流だった化粧品や目薬のキャップ向け製品にとどまらず、新たな顧客を広げていった。

豊氏はそんな誠氏の選択に当初は複雑な思いを抱いた。正直なところ、「家業に戻るなんて…」と、どこか冷めた目で見ていた部分があったという。だが、その後勤めていたスタートアップの事業ドメインが変わり、自身の得意分野が生かせなくなったことが徐々に心をむしばんでいった。元気を失った豊氏に誠氏は「一緒に家業やらへんか」と声をかけた。ちょうど新たな顧客を開拓したものの、工場スペースに制約があり頭打ちで悩んでいた頃で、「行動力のある豊ならこの状況を打開できる」との確信があったという。「俺の給料を削ってお前の分に回す」という誠氏の心意気に打たれながらも、豊氏は「俺の給料くらいすぐに自分で稼いだる」と強がった。こうして2024年5月、誠氏と豊氏が家業にそろった。

桐島豊氏

豊氏は当初「家業を継ぐはずではなかった」と悶々としていたが、誠氏に勧められるままに若手後継者たちが集まるイベントに参加し、目の色が変わった。事業に価値を見出し、がむしゃらに変革を進める後継者たちの姿に、大きな刺激を受けたのだ。その後、工場の制約を打破するために近隣の福祉作業所に加工の一部を請け負ってもらう一方、後継者イベントで知り合った文具メーカー社長から高級ボールペンを装飾する仕事を獲得。唯一無二のアルマイト技術が正当に評価され、量産品の単価も上昇。この1年で収益は大きく拡大した。

新工場への投資、量産品の受注拡大、理系人材の確保など課題はまだまだ山積しているが、お互いが認め合う「豊のスピーディな行動力」(誠氏)と「誠のものづくりのセンス」(豊氏)で、事業は今、飛躍への一歩を確実に踏み出しつつある。

(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)

有限会社電研

専務取締役 桐島 誠氏
桐島 豊氏

https://denken-alumite.co.jp

事業内容/クロムフリー電解研磨・化学研磨