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【WINGED WHEELロングインタビュー】「ハリケーンランプは私が守る!」国内唯一のランプ職人

2015.03.06

商品

日本で唯一のハリケーンランプメーカー、WINGED WHEEL(ウィングド ウィール)。別所由加さんは、年季の入った金型、プレス機と格闘しながら、一旦は消えかかったハリケーンランプづくりの灯を国内ただ1人の職人として守り続ける。

―ハリケーンランプは何のために使われるランプなのですか?

文字通り、嵐のときでも使えるランプです。灯油を燃料にして火をつけ、アウトドア用品としてキャンプのときなどに使われています。

ひいおじいちゃんが大正13年に創業しました。もともと琺瑯(ほうろう)の職人だったのですが、あるところからハリケーンランプをつくってほしいという依頼が舞い込み、製造を始めました。

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ドイツのメーカーのランプを参考に、もっといいランプをつくろうと時間をかけて研究したそうです。効率よく燃焼し、すすが出ないように計算してつくられています。

最盛期は200人ほどの社員が働き、欧米やアジアに輸出され、海外でも「MIKADO LAMP」として愛用されました。

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輸出する国ごとにヘビやピューマなどのマークの柄を変えて売っていたそうですが、その中で残ったのがこの羽根付きの車輪、つまりWINGED WHEELで、それが社名になりました。

今では国内でただ1社残るハリケーンランプメーカーになってしまいました。私はひいおじいちゃんから数えて5代目。祖父と母からは、このハリケーンランプは完成形だからこの形を絶対に変えてはいけないと言われ、この形を受け継いでつくっています。

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―ハリケーンランプの職人になろうと思ったきっかけは。

小学校6年生のときに会社が倒産しました。母は私に、なぜこういう状況になったかということをかんで含めるように話してくれました。母は1人、ハリケーンランプの火を守ろうと製造を続けました。それまでは大きな家に住んでいたのですが、小さいアパートに引っ越して。しばらくはカーテンもベッドも買えませんでした。

私は母から好きなことを自由にやっていいと言われ、ドラムに打ち込んでいました。受験も苦労しながら芸大に進んだんです。

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ところが私が大学2年生のとき、母のもとでハリケーランプをつくっていた職人が突然死で亡くなってしまったんです。弱音をはかない母がそのときぼそっと「ハリケーンランプはもううちではつくられへん。外でつくってもらわなあかんかもしれん」とこぼして。

それを聞いて「私がやるから心配せんでいい」という言葉が自然に口をついて出ました。私が「大学を辞める」と言い出すと母も周囲も猛反対。あんなに苦労して大学に入ったのに、と。でもいったん決めたら曲げない性格。母に土下座して「この仕事させてほしい」と頼み込んで、中退しました。

昔のことや先のこととかはどうでもよくて、自分の直感を信じました。

―まったく何も知らないところから職人の道に。

母は同じ敷地でもう1社鉄工所を経営しているのですが、そこの工場長に頼み込んでプレス機械の操作法を教わりました。はじめは、「女は工場に入ってくるな」って感じで、機械を覗き込もうとする私を腕でぐいっと押しのけようとするんです。でも煙たがられようが、ぐいぐいと入り込んでいって、見よう見まねで機械の操作を覚えていきました。工場長からしたら、うっとうしかったでしょうね(笑)。

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ハリケーンランプの製造に使う金型はとても古いんです。何十キロもある金型をプレス機械に乗せて、ガチャンとプレスするんですが、重労働で何度も腰を痛めました。力つけなあかんと思って筋トレもしました。

今になって、どうしてあんなに突き動かされるようにがんばっとったんかなあと思うんですけど、血というか刷り込みでしょうね。小さいときからランプに囲まれて生活してましたし、私しか守る者はいないと思っていたのでしょう。

でも不思議なことに、すんなり覚えることができたんです。プレスは手と足を使って操作するんですけど、その動きがドラムと似てるからじゃないかという人もいます。最初は母と工場長が心配してわたしの横にべったり張り付いてみてくれてたんですが、やがて独り立ちしました。

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―すべて一人でつくるんですか

そうです。ハリケーンランプのパーツは、取っ手、台、油壺なども入れると40ほどあるでしょうか。これを一つ一つ金型でプレスしてつくり、組み立てていきます。プレス工程は300ほどあります。

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バーナーも自作です。昔、電気が普及し始めたころ、バーナー屋さんがどんどんつぶれて、その会社の人たちが、ハリケーンランプはこの先も残るだろうから、とバーナーの金型をうちに託してくれたそうです。それを改良してできたのが今のバーナーで。うちのバーナーにはいろんな人の思いが詰まっているんです。

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株式会社WINGED WHEEL

代表取締役

別所 由加 氏

http://www.lanterns.jp/wingedwheel/

大正13年に曽祖父が創業。現在製造するのはハリケーンランプとオイルランプの2つ。別所氏が一人で製造を担う