スタッフ連載

キャリアと経験から生まれた独立の道〜「合同会社Help Your Career」の起業ストーリー〜

2025.07.18

起業のスタート地点も、乗り越えてきた壁も、めざす未来も人それぞれ。
この連載では、大阪産業創造館の創業支援プログラムを活用した方に加え、独自の道から起業された方のストーリーも取り上げ、起業を志したキッカケ、迷いや不安、そこをどう乗り越えたか。
一歩先を走る起業家のリアルな声から、自分らしい“始め方”を見つけてみませんか?

【起業家図鑑】vol.51
キャリアと経験から生まれた独立の道
〜「合同会社Help Your Career」の起業ストーリー〜
 

 

■ キャリアの空白が導いた起業決断

前職のIT企業で担当していたのは、ITエンジニアのマネジメントと企業とのマッチング業務。日々多くの技術者と関わり、現場を支えるやりがいのある仕事だったが、ある日突然、その日常が大きく揺らいだ。
2018年、勤務先に下された業務改善命令。改善がなされなければ営業停止という厳しい通告により、これまでの職務を続けることができなくなった。将来への不安が募る中、取引先から一本の依頼が舞い込んだ。
これが、起業への第一歩となった。

依頼の内容は、「自社の社員の教育をして欲しい」というものだった。
ちょうどそのころ、「いつかキャリアコンサルタントの資格を活かして人を支援する仕事をしたい」という思いを抱いていたこともあり、その提案を受けることにした。資格については、過去にコーディネーター職に就いていた際、知人の勧めで「いつか役に立つかもしれない」と考えて取得したもので、まさかその“いつか”がこのような形で訪れるとは思ってもいなかった。
「単発で終わらせず、1年間しっかり継続したい」と考え、年間プログラムの形式を提案した。
その後、「社員教育」という依頼内容に応えるかたちで、企業内で業務意識を高めるセミナーを企画・実施。自身も講師として登壇し、テーマに応じて外部講師の協力も得ながら、実践的な学びの場をつくっていった。

この経験をきっかけに、2019年4月に独立・起業。起業にあたっては、士業を営む父からアドバイスを受け、年間顧問契約の考え方や収益モデルの作り方などを学んだ。「父のアドバイスがあったからこそ、事業の土台を築くことができたと思います」と山本氏は語る。

その後、紹介をはじめとした口コミでクライアントが徐々に増え、順調に広がりを見せていった事業も、コロナ禍の影響で新たな販路の開拓が思うように進まなくなった。
そんな中、業界の仲間から声をかけられたことをきっかけに、オンライン研修のサポートに携わることとなる。講師それぞれの話し方や、受講者の集中を意識した時間帯の工夫などを間近で見る中で、多くの学びを得ることができ、コロナ禍という制約の中でも、自分の視野や可能性を広げるきっかけとなった。
2020年に結婚し、翌2021年に法人化。
法人化のタイミングも、税理士である父の助言が大きな支えとなった。困ったときにはすぐそばに相談できる存在がいることが、大きな安心感になっているという。

■ 事業としての第一歩 “やってみたい”を形にするまで

合同会社Help Your Career(ヘルプユアキャリア)が行う研修の評価は、単なる満足度だけで測っていない。
重視しているのは、「再現性」「実現性」「関連性」といった観点。定点観測によってその3軸を確認し、5点満点中4.5以上の評価を継続的に維持しており、企業へのフィードバックとして共有している。

本当に大切なのは、研修を受けた結果として「何が変わったのか」という点。
たとえば2時間の研修を受けただけでは、内容をすぐに忘れてしまうこともある。
そのため、終了後には必ずレポートを提出してもらい、「実践できたかどうか」「できなかった場合は、どんな工夫が必要か」など、次の行動につなげる“宿題”として受講者の業務に落とし込むことを大切にしている。

■ 当たり前だと思っていることが、実は当たり前ではない――

健康もそのひとつ。山本氏自身、そう実感する出来事があったという。
今は元気に過ごしている二人の子どもたちも、先天性の心臓病を抱えて生まれてきた。
起業から間がなく法人化してまだ1年も経たない当時に、子どもたちの通院や入院にあわせて仕事の調整が必要になり、業務に集中できない日々や、将来への不安と向き合う時間も多くあったという。この経験が「当たり前とは何か」を問い直すきっかけになった。

そして、この気づきこそが、山本氏自身の研修づくりにもつながった。「健康で、学べる時間があり、誰かの支えがあって研修を受けられる」という状況自体が、実はとても貴重なもの。
だからこそ、その機会を活かし、学びを行動につなげてほしいという思いを、受講者にも伝えるようにしている。「この学びの機会を『チャンス』として前向きに捉えてほしい。受講者には常に伝えています」と語る。

また、同時に「自分だけでは、どうにもできないこともある」と実感した。以前は何でも自分でやりたいと思っていたことも、限界を感じたことで、「専門的なことは専門の人に任せればいい」という考え方に変わっていった。

仕事も同じく、得意なことは自分が担い、苦手な部分は人に頼る。そうやって協力し合う「協業」の姿勢が、結果的にお客さまとの間にシナジーを生み、良い成果につながるのではないかと考えるようになった。研修でも「一人で抱え込まず、人と協力することの大切さ」を伝えるようにしているという。

■この先に描くビジョン

起業時に父からかけられた「一億円ビジネスにしろ」という言葉は、今でも山本氏の心に残っている。とはいえ、単に売上額を追いかけるのではなく、「自分と手をつないだ人が、ちゃんと食べていけるようにしたい」というのが、今のモットーだという。キャリアコンサルタントという仕事も、下請けのような受け身のビジネスモデルから脱却し、クライアントと価格や目的を共有する対等な関係を築くことを大切にしており、「いくらもらえるかを想像する」ことが、プロとしての第一歩。だからこそ、“食べられるキャリコン”を増やしたいと考えている。

そのためにも、あらたなチャレンジとして人脈に頼るだけでなく、SNSなどを活用した販路の広げ方も模索しているそうだ。

■ 未来の起業家へのメッセージ

できない理由を探すのではなく、「できる理由」を見つけること。
時間・環境・年齢など、言い訳にしがちな要素に縛られず、「売りたいもの」ではなく「買ってもらえるもの=求められているもの」を見つける視点を持つこと。
そして、丁寧にお客さまとの関係性を築いていくことを大切にしてほしいです。

合同会社Help Your Career
最高経営責任者 山本 弘和氏

社名「Help Your Career (~あなたの次なる一歩へ~)」に込められた、“誰かの力になりたい”という思い。
その気持ちが事業として形になった背景には、山本氏自身が直面した厳しい状況の存在があった。もしかすると、その逆境という後押しがなければ、一歩を踏み出すことはできなかったかもしれない。できる理由を探し、人と協力しながら“食べられるキャリコン”を育て、信頼関係を土台にした事業を築く山本氏の歩みは、経験と気づきを活かした実践型キャリア支援のかたちを体現している。

アイデアだけでもいい、まずは誰かにそのアイデアについて話してみませんか?
大阪産業創造館では、起業に役立つセミナーやプログラムをご用意しています。

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合同会社Help Your Career

最高経営責任者

山本 弘和 氏

https://helpyourcareer.net