家族の絆が生んだ挑戦の軌跡〜「恩結び-on-」の起業ストーリー
大阪産業創造館 創業支援チームの【起業プログラム】を実際に利用し起業した“先輩起業家”を紹介する連載コラム。起業を志したキッカケや、困難に直面したとき乗り越えた方法、また事業を軌道に乗せるために必要なことなど。一歩先をいく先輩起業家の体験談を紹介します。
目次
■ サロン経営から飲食業への転換
長年続けてきたネイルサロン経営から一転、飲食業への挑戦を始めたきっかけは、コロナ禍に家族内で交わされた何気ない一言だった。
レストランでシェフを務めていた息子がコロナ禍での休業をきっかけに、「独立したい」と語ったことを皮切りに、「それなら家族でお店を経営できないか」という話が持ち上がり、具体的な行動を模索しはじめた。
当時、10年間続けていたネイルサロンの店舗運営の経験もあったことから、経営の基礎的なノウハウはあると考えた。さらに、夫は居酒屋を運営する企業に勤めており、飲食業の知識やつながりを持っていたことも、家族の挑戦を後押しした。
息子の独立への意志がきっかけとなり、家族全員が「力を合わせてお店をつくる」という共通のゴールに向かって動き始めた瞬間だった。店舗の準備が着々と進み、開業を数か月後に控えた矢先、夫が体調を崩し、そのまま帰らぬ人となるという予期せぬできごとが起こった。
一時は立ち止まることも考えたが、家族で話し合いを重ねる中で、夫の遺志を継ぎ「家族での起業を実現させよう」という強い思いが生まれた。そして、これまでサポート役だった自分が、今度は「自らの手でお店をつくる」という覚悟を決めた。夫が築いてきた人脈が大きな支えとなり、知人たちからのさまざまな支援が背中を押した。
■ 目標とする存在との出会い
飲食店の経営に挑戦するにあたり、自分自身にプロとしての調理経験がなかったため、「本当にやり遂げられるのだろうか」という不安が心をよぎった。そんなある日、何気なく見ていたテレビ番組に登場した、有名おにぎり店の「おかみ」のストーリーに心を打たれた。同じく夫を亡くしながらも、一人で数十年間、店を続けている姿を見て、「この人のようになりたい」と思うようになった。
そうと決めたら、居ても立っても居られなくなり、大阪・梅田にあるそのおにぎり店の求人に応募し、調理の現場に飛び込んだ。限られた時間の中で働きながら調理師免許を取得し、飲食店経営に必要なスキルと自信を着実に培っていった。
そんなとき、街角インタビューで自分の状況を話したことがテレビ番組のプロデューサーの目に留まり、番組で飲食店の「一日店長」を務めるチャンスが舞い込んだ。
一日店長として出演する中で、憧れていたおにぎり店の「おかみ」と直接会う機会を得ることができた。飲食業の現場からリアルな経営のノウハウを改めて体感する貴重な経験となり、「飲食店経営に必要な視点や考え方」を学ぶ大きな転機となった。この出会いを通じて、これまで以上に経営の大切さを実感するきっかけにもなった。
また、重なる偶然のできごとに、次第に「ただならぬ縁」を感じるようになっていく。
■ つながる「縁」と店舗の開店、起業プログラムとの出会い
テレビ出演をきっかけに、友人から「物件を紹介したい」という話が舞い込み、店舗の居抜き物件を提案してくれた。店舗は、寮の1階にあったまかない食堂の居抜き物件で、調理設備がそのまま活用できる状態だった。すぐに話がまとまり、念願の店舗オープンへの大きな一歩となった。
物件が決まったことで、いよいよ資金調達など具体的な準備をスタートした。開業に向けた計画が現実味を帯び、起業の知識を深めるためにネット検索を行った結果、大阪産業創造館の起業プログラムの存在を知る。早速問い合わせたところ、飲食店開業に特化したプログラムがあることを知り、まずは「起業準備セミナー」に参加。経営に関する基礎的な知識を体系的に学んだ後、「事業計画書作成講座」にて実践的な資金調達のノウハウを吸収していった。講座を通じて、事業計画の重要性を理解し、開業への具体的なステップが明確化することができ、「何を準備すべきか」「どのように進めるべきか」が見えるようになり、スムーズな事業の立ち上げを支える大きな土台となった。
また、交流会やイベントにも積極的に参加。同じく起業をめざす仲間や、すでに起業した先輩たちと交流する中で、多様な考え方や価値観に触れることができた。
「自分に何が足りていないのか」を見極めるヒントを得ると同時に、「他者からの学び」の大切さを実感した。
夫と計画していた開業予定からは大幅に遅れたものの、独立をめざしていた息子を含めた家族とも力を合わせ、理想通りのおにぎり店を無事オープンすることができた。さまざまなお客さまが気軽に立ち寄れる、アットホームな雰囲気づくりをめざしている。
■ 未来の起業家へのメッセージ
起業家が集まるコミュニティに参加し、その大切さを実感しました。
そこには、飲食店の開業者をはじめ、さまざまな事業者が集い、悩みや成功の秘訣を共有していました。その中で、自分一人では気づけなかった視点に触れ、「新たに視野が広がる場」になりました。お互いの経験を学び合うことで、自分の課題や次の一手が見えてくるはずです。
起業するにあたり、「すぐに行動する力」は何よりも大切だと感じています。やろうと思ったときに迷わず動くことで、チャンスが生まれるきっかけが増えるからです。「失敗してもまたやればいい」という気持ちが大事だとポジティブに捉えています。ぜひ、前を向いて進み続けてください。
おむすび専門店「恩結び-on-」(おむすびおん)
代表 高井 由美子 氏
最後に、「恩結び-on-」名前の由来について伺った。
「恩」という字を選んだ理由には、家族のつながりや周囲からの支えへの感謝の気持ちが込められている特別な一文字でもあり、家族にとって思い入れの深いこの字を使うことで、家族の存在を感じられる店にしたいという気持ちも込められている。
さらに、本人自身も心臓の病気を抱えながら命がけで出産を乗り越えた経験から、「生きていることのありがたみ」から、その後のさまざまなできごとを通じて、「結ばれていく縁に感謝し、恩を感じる」という思いが生まれ、「恩結び」という店名にたどり着いたのだという。
家族の想いと周囲の支えを受けながら、ネイルサロンから飲食業への挑戦を成し遂げたストーリー。夫の遺志を受け継ぎ、息子の独立の夢をきっかけに「家族で力を合わせた起業」を実現。憧れの経営者や支援者との縁という後押しを受け、今も家族がそれぞれのカタチで支え合いながら、運営している。
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⇒利用した起業プログラム
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