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“耳に残る音”がブランドをつくる――記憶に刻むサウンドの設計図

2025.06.05

そのワンフレーズを聴くとあの商品が思い浮かぶ。「サウンドロゴ」は企業や商品を強く印象づける楽曲だ。目的はロゴマークと同じで、理念やブランドを“音”で表現することにある。「耳って意外とがら空きなんですよ」と話すのは、株式会社アイボリーミュージック代表の足立氏。視覚でブランドを訴求する企業は多いが、聴覚で戦略的にブランディングを行う企業は少ないという。そこで足立氏が取り組んでいるのが「広告音楽」という分野だ。「CMは時代の最先端を行く音楽領域であるにもかかわらず、『CM音楽をつくりたい』という音楽家はあまりいないんです。商品のマーケティングとブランディングをサウンド面から後押しできることに魅力を感じています」と語る足立氏は、作曲家、プレイヤー(ピアノ、キーボード)、広告制作の三本柱で起業。サウンドマーケティングとサウンドブランディングを手がけている。

蓄積された知識と感性が、鍵盤から音のアイデアとして形になっていく。

広告音楽をビジネスとして展開する際に重要な要素の一つに、足立氏は「翻訳力」を挙げる。依頼主であるクライアントの多くは音楽の専門家ではないため、「かっこいい感じで」や、「おいしそうに聞こえるように」、あるいは「きれいでぴかぴかになったような音に」と抽象的な言葉で要望を伝えてくることが多い。足立氏は、そのイメージを共有するために、商品の目的を詳細に聞き、曲のイメージを特定のアーティストに例えてもらうなど、さまざまな方法で言葉を引き出し、音楽に「翻訳」していく。

そうして作曲に取りかかるのだが、サウンドロゴの勝負はなんと最初の「2.5秒」で決まるという。なぜ2.5秒なのか。その理由は現代の動画視聴環境にある。「現代は動画があふれかえっており、特にスマホではCMだと思った瞬間にスキップされてしまいます。どれだけ長い映像をつくっても、見てもらえるのは最初のほんの数秒。そのため、出だしのワンフレーズにもっとも印象的な言葉、メロディー、音色を詰め込みます」と足立氏。

作曲家・代表取締役 足立 知謙氏

足立氏は年間120曲以上の広告音楽を手がけている。そのなかにはよく知られた企業のCMも多く、メディアや街なかで耳にすることもある。そんな音楽をコンスタントに生み出すために必要なもの、それは「技術」だと足立氏は言う。「発想やひらめきは5%くらい。あとの95%はそれをカタチにする技術です」。技術とはメロディーを紡ぐ力、楽器の知識、音楽理論、最先端の音楽ツールやソフトウェアを使いこなす力、そしてプレイヤーの演奏を最大限に引き上げるディレクション力など多岐にわたる。聞けば聞くほど総合力が問われる分野だとわかる。

この鍵盤から、企業の“音の顔”となるサウンドロゴが生まれる。

かつてCMは資本力のある大企業の広告手段だった。しかし、最近ではソフトウェアとSNSの普及で安価に制作・配信できる時代になった。そんな時代の変化に伴い、足立氏はVTuberや自治体とコラボする機会も増えているという。今後は中小企業向けの手の届く価格帯のサウンドロゴや、教育分野への提案にも力を入れていくつもりだ。「大企業のものだったサウンドブランディングをもっと多くの人に認知してもらいたい。CM音楽は企業、演奏者、制作に関わるすべての人たちの力を結集してつくります。そのプロセスこそが最高の喜びですね」。

(取材・文/荒木さと子 写真/福永浩二)

株式会社アイボリーミュージック

作曲家・代表取締役

足立 知謙氏

https://ivorymusic.jp

事業内容/CM音楽など音に関するさまざまな制作業務