商品開発/新事業

《講演録》OEMで培った技術を活かし大ヒット!小さな靴工場から足袋型シューズが誕生するまで

2026.03.17

2025年11月11日(火)開催
OEMで培った技術を活かし大ヒット!
小さな靴工場から足袋型シューズが誕生するまで

講師 岡本 陽一氏
(岡本製甲株式会社 代表)

足は、歩くときには広がるのに、靴の中で締め付けられる。そのため、多くの人が靴を履くことで足を痛めている。岡本製甲株式会社の三代目、岡本陽一氏はこの事実に気づいた。野球部の先輩からの依頼で始まった足先が二股に割れた足袋シューズは、アスリートの高パフォーマンスに貢献するだけでなく、外反母趾対策にもなり、足の健康を助ける靴として同社を支えている。本セミナーでは、そんな岡本氏に、足袋シューズ開発の道のりと、オリジナル商品への挑戦が持つ意味についてお話しいただいた。

■ 苦境に立たされる靴工場

当社は創業から60年、靴づくり一筋の工場です。道半ばで大ヒットには至っていませんが、OEMで培った技術を生かした足袋シューズの開発を通じて、予想しなかった喜びや挫折を経験してきました。

現在の従業員は35名。靴工場としては、かなり大きい方です。日本の靴産業は今、非常に厳しい状況にあります。材料が国内で手に入りにくく、最新の技術にも対応できない。国内でできるのは革靴など昔ながらの靴づくりが中心で、現在の需要に応えられないため、海外製品が主流となっています。

靴工場を見学するとわかりますが、靴の製造はほぼ手作業で成り立っていて、機械でできることは本当にわずか。見学に来られる方の多くは、機械でオートマチックに製造されていくものだと思われているようで、「すべて手作業なんですね」と驚かれます。

靴づくりには多くの工程があります。衣料品と比べてみると、その違いがよく分かります。服は生地を裁断して縫い合わせれば一着が完成します。しかし靴は、アッパーと呼ばれる足の甲を覆う部分を縫い合わせた後、木型で立体的に成形し、ソールを接着して紐を通してインソールを入れる、といった作業を左右分行って、ようやく1足が完成します。そんな靴ですが、価格は服とそれほど変わりません。

参入障壁が高く、収益を確保するのが難しい靴産業。靴のブランド数はアパレルブランドの1,000分の1程度でしょうか。そんな厳しい状況の中、私たちは生き残りをかけて、OEM頼りから脱却し、オリジナル商品を産み出すことに挑戦してきました。ただ、そのきっかけは偶然のご縁から始まります。

 

■ 「先輩の言葉は絶対」から始まった挑戦

私は高校、大学で野球をやっていましたが、この野球経験が足袋シューズ開発に繋がりました。野球部の先輩が、ある甲子園の常連校のコーチをしていました。営業を兼ねてそちらを訪れた際、選手たちが地下足袋を履いて練習しているのを目撃しました。初めて見る光景だったので、「なぜ地下足袋で練習するんですか?普通スパイクじゃないんですか?」と聞いたところ、「最近の若い子は足が弱い。特に地面を掴んだり蹴ったり、母指球でしっかり踏み込むことができない選手が多い。彼らに正しい動きを覚えさせるには裸足が一番だけど、グラウンドでは怪我をする。だから地下足袋を履かせている」とのことでした。

ただ、地下足袋には「破れやすい」「脱着に時間がかかる」などさまざまな問題があります。そこで先輩から「お前、靴をつくっているんだから、もっと良いものをつくれよ」と言われたんです。私も昭和の男なので、先輩にそう言われたら「わかりました。やります」か「喜んでやります」しか選択肢がありません(笑)。岡本製甲の技術を活かそうとか、OEMを脱却するためとか、SWOT分析をしてとか、そういった戦略的な検討を経たスタートではありませんでした。

こうして先輩の「命令」で製作したのが「バルタンX」という商品です。正直、見た目はダサいと思っています。周りから「よくこんなのをつくったね」と言われながらも、それでも「足に良いので履いてください」と訴え、つくり続けました。

当初、売り先はまったく決まっていませんでした。高校球児用として、5,000~6,000円程度の商品にする必要があったので、中国に渡って、現地の工場に「こういう足袋型の靴をつくってほしい」と依頼しました。すると、「ロットは?」と聞かれ、「3,000足つくってくれ」と即決して帰国。300ケース分になる足袋型シューズが壁一面に積み上がっているのを見て、「どうやって売ろうか」と途方に暮れたことを覚えています。

実際、営業を始めて、苦戦しました。いくら「裸足に近い感覚の靴です」「高校野球の選手が足袋シューズを履いて練習していて、足に良いんです」と説明しても、なかなか信じてもらえず、訴求力の弱さを痛感しました。「面白い商品だね」とは言ってもらえたものの、これが「足に良いもの」だというエビデンスが必要だと気がつきました。

 

■ 靴が足の健康を害している現実

そこで私は、地元の金融機関に相談して大学を紹介してもらい、大学と共同で足袋シューズの研究を始めました。以来、長年にわたってさまざまな測定を行ってきました。

裸足、一般的なウォーキングシューズ、足袋シューズの歩行データを比較すると、足袋シューズが最も強い蹴り出し力を示し、ウォーキングシューズが最も弱く、裸足はその中間という結果が得られました。足袋シューズは、足の指に重点を置いた設計により、裸足に近い感覚でありながら、より強く地面を蹴ることができます。

また、歩行に関する研究データから、足は踏み込む時に広がることがわかりました。裸足で砂浜を歩くと足の指の間から砂が入ってくるのも、この現象によるものです。こうした研究によって裏付けられた足袋シューズの性能は、アスリートたちの高パフォーマンスによって、次第に証明されるようになりました。

最初に手掛けた「バルタンX」をもとに、「VALTAN」という商標を取得し、世界初の足袋型スパイクを開発しました。これを履いた野球選手が、2025年の日本シリーズで大活躍したんです。足袋シューズを履いたアスリートが結果を出せるのは、足の健康を守りながらパフォーマンスを高められるからです。

一般の人にとっても、足袋シューズは大きな意味を持つことが分かってきました。靴は足を守るために生まれたものなのに、それを履くことで足を痛め、悩む人が増えています。タコやウオノメ、巻き爪などの足の疾患は、親指と小指の付近など靴に締め付けられている部分に集中して発生するようです。

また、外反母趾に悩まされる人が激増しています。足は歩く時に広がるのに、靴の中で締めつけられてしまうことが原因だと考えられます。私たちが足袋シューズ事業で生き残れている最大の理由は、外反母趾対策にあります。高校野球選手用に開発したものが、外反母趾対策に効果的であることが、結果的に売れ行きを支えています。

 

■ 足袋シューズの可能性を追う

さらに、子どもの頃から足袋シューズを履き続けることで、大人になっても足に悩むことがなくなる。そんな世界を実現することが私の大きな夢です。
実は以前、某大手シューズメーカーと子ども用の足袋シューズの開発を進めていました。サンプルまで完成したのですが、アメリカの本部から「こんな靴が売れるわけがない」と却下されてしまいました。

しかし、完成していたサンプルを、現在18歳になる息子に4歳の時から履かせてきたところ、足の変形が全く生じていないことが分かりました。息子はあまり運動をしませんが、土踏まずの3つのアーチがしっかりと形成されています。この結果から、足袋シューズは足の健康に良いと確信できました。

足袋シューズが人の心理にどう影響を与えるのかについても研究したいと考えています。例えば、鳶職の人は地下足袋を履いて高所作業をしますが、厚底シューズでは「怖くてできない」と答えるでしょう。靴が心理的な安定・不安定に影響を与えていると考えられます。

実際、岡山大学との研究で興味深いデータが得られました。歩行時の左右の足幅を測定したところ、裸足や足袋シューズを履くと足幅が狭く、普通のウォーキングシューズでは広くなるという結果が出たのです。人は不安定さを感じると、無意識に足を広げて踏ん張る傾向があります。その点、裸足に近い足袋シューズでは心理的な安定を得られると考えられます。今後は、この仮説を検証する研究を進めていく予定です。

 

■ 足の健康へのやりがいが、ここまで導いた

世界的な潮流も私たちの取り組みの追い風になっています。ベアフットシューズをご存知でしょうか。裸足のことをベアフットと呼びますが、裸足に近い靴の市場が急速に伸びていて、特にヨーロッパで大きな広がりを見せています。

これまで、つま先が細くシュッとした形が美しくてかっこいいとされてきましたが、そうした靴を履くと足が痛くなる経験を多くの人がしてきました。今では「現代の靴は足に良くない」「裸足に近いほど圧迫感がなく、足の健康につながる」ことに気づき始めています。私たちも、ベアフットシューズに近い靴をつくりたいと思っています。
こうした流れも受けて、足袋シューズを広げていきたいという思いは一層強くなっています。プロ野球をはじめ、実績は着実に積み重なってきています。今後、ランニングやゴルフなど、さまざまな競技でこの流れが続き、パフォーマンス向上や疲れにくさといった効果が認知されれば、スニーカーのように一般にも広がっていくでしょう。そうなれば、多くの人の足の健康に貢献できるはずです。

こうして研究や開発を重ねながら、岡山県倉敷市の田んぼの真ん中にある工場で、私たちは靴をつくり続けています。足袋シューズや岡本製甲の知名度はまだ高くありませんが、ここまで続けてこられたのは、足にとって良い靴、社会に役立つものを手掛けているという実感があるからです。

足袋シューズの事業は、着実に成長しています。オリジナル商品が、会社を知ってもらえるツールになっていることも大きな成果です。もし今、私たちがOEMのみを手掛けていたら、岡本製甲という名前を知っている人はほとんどいなかったでしょう。知名度が上がったことで、靴の相談や足袋シューズの製作依頼が舞い込むようになりました。
オリジナル商品を手掛けると必然的にPRが必要になり、社名の露出が増え、事業内容も知ってもらう機会が増えます。その挑戦には、売上げや収益の改善にとどまらない、大きな価値があると実感しています。

(文/原田 琢)

 
岡本 陽一氏(岡本製甲株式会社 代表取締役)
岡山県玉野市出身。玉野光南高校から函館大学へ野球で進学。大学卒業後、1964年創業の家業である岡本製甲株式会社に入社。現場作業から靴づくりの基礎を学び、海外貿易や品質管理に携わる。野球部の先輩からの一言をきっかけに開発した足袋シューズの開発が、プロ野球選手のスパイクやランニングシューズとして採用された。岡山県倉敷市の工場で従業員35名とともに、すべての人の足の健康に貢献することをめざしている。

岡本製甲株式会社

代表取締役

岡本 陽一氏

https://okamotoseiko.com

事業内容/靴製作