《講演録》アース製薬トップが語る!『ゼロベース思考による強い組織作り』
2023年5月16日(火)開催
【トークライブ!】
《講演録》アース製薬トップが語る!『ゼロベース思考による強い組織作り』
川端 克宜氏(アース製薬株式会社 代表取締役社長CEO/グループ各社取締役会長)
虫ケア用品(殺虫剤)や日用品で知られるアース製薬株式会社は、2025年に設立100年を迎える。川端氏は、42歳の時に同社初となる生え抜きの社員から社長に就任。就任後は事業の多角化を行う一方で、海外展開を進めるなど事業領域を拡大させている。今回の「トークライブ!」では、ビジネスモデルの構築方法やお客さま目線の商品開発、イノベーションが誕生する秘訣について語ってもらった。
◉大阪で創業
アース製薬は大阪で創業し、今年131年目を迎えました。2025年には設立100周年を迎えますが、100年の時を迎える瞬間に在籍できることは幸せなことですので、お取引先様や先輩社員の皆様に感謝の気持ちを込め、2025年にはお祝いのセレモニーを企画しています。
◉42歳で社長に就任
私は2014年にアース製薬の社長に就任しました。前社長は、当時まだ役員でもなかった私を次の社長にすると早々に決めていたそうです。私は大阪支店の支店長でしたが、「社長が辞めるらしい」という噂を耳にした程度でした。
あるとき、前社長と二人で喫茶店でお茶をしたとき、その席で社長就任の打診がありました。私は「は?」と聞いたつもりでしたが、前社長は「はい」と聞こえたそうで、安堵した様子で帰られました。
その後社長に就任するまでは3年間ほど期間がありましたが、引き継ぎなどもなく、「就任後は忙しくなるから」と言われただけでした。何事も「なんとかなる」という意味だったのかもしれないと今では思っています。
◉経営者の仕事は課題の根本治療
最近は取り巻く外部環境の変化が速いため、環境や状況に応じて危機感を持って変えていくことは重要です。
例えば最近は毎年のように異常気象が続いています。毎年続いていると異常気象ではなく、それも当たり前になっているのではないかと感じています。弊社は従来の春夏秋冬に合わせた販売や開発の仕組みを設けていたので、従来の感覚ではダメだと考え、社内の反発を覚悟のうえである改革を提案したことがあります。
私はよく「物差し」という言葉を使うのですが、その改革とは過去の考え方の物差しを一新することでした。物や外見ではなく会社の中身を変えていきました。改革を実行していくには厳しさも必要ですし、周りを巻き込んでいく力も必要だとこのとき感じました。
このように経営者の仕事というのは「応急処置」をすることではないと思っています。20年後、30年後を見据えて、課題の根本治療をしていくことです。
◉世界を変えることを夢見て
みなさんはアース製薬にどういったイメージをお持ちでしょうか。多くの方が「虫ケア用品(殺虫剤)」とおっしゃると思いますが、実は弊社はそうしたイメージからの脱却をめざしています。
振り返ってみると、私が入社した30年前、扱う商品は「虫」に関連したものばかりでした。ところが、現在は「虫」に関連した商品は全体の約3割で、虫以外の日用品や衛生用品などの事業が残り約7割を占めています。売上げ全体が落ちているのではなく、日用品や衛生関連事業が伸びているためです。これは直近約10年間で急速に進みましたので、この先の10年を考えるとやはり柔軟に対応していくことが大切だろうと感じています。
そうしたことを考える中で、先ごろ「MA-T™」という技術と出会いました。MA-T™はMatching Transformation System®(マッチング・トランスフォーメーション・システム)の略で、革新的な酸化制御技術です。特許技術なのですが、普段は水とほぼ同じ性質を持ちながら、反応すべき菌やウイルスが存在するときに必要な量だけ水性ラジカルを生成する「要時生成型亜塩素酸イオン水溶液」です。
現在の社会課題の解決につなげようという目標のもと、現在大阪大学と産官学の連携でMA-T™の価値向上と普及を行うことができる、オープンイノベーションのプラットフォームとして「日本MA-T工業会」を設立しました。日用品や医薬品の分野の大手企業100社以上の企業が業界の枠を超えて参画しており、私としてもこの技術で世界を変えられるのではないかと夢見ています。
◉商品開発で最も重要なこと
アース製薬は「お客さま目線」での商品開発をとても大切にしています。どこの会社でも当たり前のことだと思います。しかしこの当たり前のことができていないのです。弊社では「お客様相談室」を「お客さまのお気づきを活かす窓口部」という名称に変更し、社長直轄の部署として運営しています。お客さまの「生の声」を直接聞き、その声を商品開発につなげる唯一の部署として大切にしています。
「この商品はこう変えていったらいいのでは」というご意見をいただくことも多く、そうした意見に真摯に応えていくことを大切にしています。お客さまからいただいた声をもとに商品開発会議を行い、商品化につなげたケースもあります。
たとえば、弊社の商品に「お部屋のスッキーリ!Sukki-ri!」という消臭芳香剤があります。この商品の特長は、液が上から下に落ちる仕組みを取り入れたことです。お客さまの「振らないといけない、最後まで使えない」という不満点から「逆転の発想」の消臭芳香剤開発ました。
また、アース製薬では約1,500人の社員が働いていますが、それぞれが専門性を持つ一方で、一人の消費者でもあります。そこで新商品や改良のアイデアを自由に書き込める「Act For New Product」という掲示板を設け、社員一人一人のアイデアを商品開発に繋げています。この掲示板は社長の私にも直接届くようにしていますが、年間約6,000件ものアイデアが寄せられ、そこから商品化につながることもあります。
商品開発で最も重要なことは、目先の利益にとらわれないことや自分自身が本当に使いたい商品であるかどうかということです。お客さまが商品を買ってくださるのは悩みや課題を解決してくれるからであって、自社の商品がその解決にどれほど結びつくのかを考えるべきだと思います。そうした意味で、自慢の商品であっても、100点満点の商品はないと私は思っています。
◉5万7千600時間をどう過ごすか
失敗の9割はコミュニケーション不足によるものです。大切なことは「腹落ち」することです。そこで社内に社員同士のコミュニケーションが活発になるような「場」として、お洒落なカフェや、「eスポーツ」を楽しめるスタジオ、シュミレーションゴルフができる施設など、違う部署の社員同士のコミュニケーションがより活発になる事を願いつくりました。
会社がどこへ向かっているのかを社員一人一人がしっかり認識し理解することも大切なことです。例えば弊社では中期経営計画の全員参画を目的に親しみやすいコミック(漫画)にしました。「腹落ち」することが大切と話しましたが、経営者はどうやって理解してもらうのかを考えることは重要です。中計で掲げる戦略骨子に沿った具体的なアクションを「SMILE」に紐づけて表現しました。ネーミングも社内で公募をして「ACT For SMILE」としました。
どんなにお金持ちでも、未来に行けるタイムマシンを買うことはできません。誰しもが10年後の未来はわかりません。
しかし時間は有限です。次の10年間を時間に直すと8万7千600時間。月に20日間稼働するとすれば5万7千600時間しかありません。その時間をどう過ごすか。人はお金の浪費には敏感ですが、時間の浪費には気づきにくいものです。過去は変えられませんが、自分の行動ひとつで未来は変えられます。これからの5万7千600時間をどう過ごすか、私自身もしっかり考えていきたいと思っています。
(文/安藤智郎)
川端 克宜氏(アース製薬株式会社 代表取締役社長CEO/グループ各社取締役会長)
1971年、兵庫県生まれ。94年、近畿大学卒業後にアース製薬入社。国内流通営業を担当する。2006年に広島支店長、09年に大阪支店長を歴任。12年12月、ガーデニング戦略本部本部長となり、翌年に取締役。14年3月、代表取締役社長就任。17年1月、アースグループCEO就任し、2021年3月からアース製薬株式会社代表取締役社長CEO、グループ各社取締役会長を務める。