《講演録》どこにもない価値は逆境から生まれた!高級食パンの火付役“乃が美”創業ストーリー
《講演録》2020年12月5日(土)開催
【起業 STEP UP フェスタ 2020~予測できない時代の起業に向けてDRIVE!!~】
「どこにもない価値は逆境から生まれた!高級食パンの火付役“乃が美”創業ストーリー」
阪上 雄司氏(株式会社乃が美ホールディングス 代表取締役社長)
いまや単なる日常の食材としてではなく、手土産としても重宝されている「乃が美」の高級「生」食パン。ところが同社創業者の阪上雄司氏は、もともとパンづくりに精通していたわけではなかったという。2020年12月5日に行われた「起業 STEP UP フェスタ」に登壇した阪上氏が、逆境の中にビジネスチャンスを見出したきっかけや、パンの新たな価値を全国に広げるまでの起業ストーリーを語った。
☞ 巨大企業社長のオーラ
実家で祖父が米屋を営んでおり、物心つくころには自分も「お祖父ちゃんの米を売りたい」と考えていました。ところが、祖父から店を継いだ叔父の代で店は閉店を余儀なくされ、さらに父の事業の失敗もあり、恵まれた環境とは言えませんでした。
高校卒業後、当時のダイエーに入社し、担当した店舗で粗利率全国1位を2年連続で達成し、表彰いただいたことがあります。何千人もの前で当時の中内㓛・会長から表彰していただいたとき、中内会長のオーラと熱量に圧倒されたことを覚えています。
しかし、私がダイエーに辞表を出したのはその1ヶ月後のことでした。経営者としての祖父の姿とサラリーマンとしての自分を顧みた時、自分は表彰される側ではなく「表彰する側」になりたいと思ったからです。
「何がヒットするのだろう」。退職して起業をし、さまざまな事業を始めてみたものの失敗の連続でした。一旦はヒットしても、すぐふとしたきっかけで下火になる。100年200年続く会社にするにはどうすればいいのか、そればかりを考えていました。
☞ 山中のうどん屋にあったヒント
そんな時、当時お世話になっていた香川県の方が地元で昼食に誘ってくださいました。駅前あたりかなと思っていたら、車でどんどん山のほうへ向かっていきます。随分走って着いた山中の小さな店には、長い長い行列ができていました。
「あれはなんですか?」と聞くと、「打ち立てのうどんが食べられる製麺所」と。1人前150円。自分でダシを注いで食べるスタイルの店の前で、何十人もの人が列を成していたのです。
私にとってその光景は衝撃的でした。それまで飲食店の「鉄則」と聞いていた「看板は駅から見えるところに」などという事柄は守られてない。それなのに、百数十円のうどんを食べるために、ひとけのない山中の店に県外からも交通費をかけて来る人たちが大勢いたのです。
そのうどんは、本当においしかった。感動するほどおいしいもの、「ほんまもん」を出す店ならば、不便で遠かろうが、値段に関係なく、人は必ず食べに来るんだということを学びました。そして、こういう会社や店こそが何百年も続いていくのだと確信しました。そこから私の思考が変わり、何かオンリーワンのもの、「これだ」と思えるものを生み出そうと考えるようになったのです。
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