【飲食店開業への道】オーダーメイド料理の魔法に魅了されて mori cafeが贈る世界にひとつだけの味わい
オーダーごとに依頼人とじっくり相談。コンセプトに合わせ、世界でたった一つのお菓子や料理を生み出し、盛り付けや包装までプロデュースする。経営から調理まで、mori cafeの全工程を手がける森氏の職種は、料理人というよりクリエイターが近いのかもしれない。
店舗を持つ2年ほど前から事業をスタートさせ、知人からの依頼でつくったメニューをSNSで発信。地道にファンを増やしてきた。「オリジナルレシピのお弁当を300食」など、企業からの大きな依頼も入るようになり、工房をメインとしたカフェスペースを開くことを決意。
大工の友人と一緒に改装した店舗は、路地裏の長屋。阪急上新庄駅のすぐそばだが、普通に歩いているとまず気が付かない場所にある。「一人でやっているので、SNSもお店も本当に必要としてくれる人だけが来てくれるのがありがたいんです」。
開業に至る道のりは、自身の生きてきた道のりと重なる。「自分の店を持ちたい思いは子どものころから。何を扱うのか、自分の強みは何なのか、肝心なところが決まらないまま大人になりました」。テーマパーク、映画館、別荘地のドッグカフェなど、これぞというテーマを見つけるため、気になることは何でもやろうと幅広い仕事を経験してきた。カフェに的を絞ってからは専門学校に通い、調理や店舗経営の知識も学んだ。
飲食店開業サポート事業「あきない虎の穴」を受講後、時間制カフェの店長を経験。カフェだけで経営を成り立たせる難しさを実感すると共に、自分の店のテーマをついに見つけた。貸し切りを依頼された際、先方のコンセプトに合わせたメニューやサービスを提供する面白さに目覚めたのだ。人に喜んでもらえ、自分も楽しい。時間と手間がかかるから、競合が少ない。時・場所・人に合わせたオリジナルメニュー。「私はこれをやろう!」と閃いた。
当初の顧客はこれまでに出会ってきた人々とのつながりから。リクエストに応えるための引き出しも、幅広いジャンルの仕事で培ってきたものだった。「具体的な目標や専門性はなかったのに、何かの役に立つと思って一生懸命にやってきたことが、ようやくカタチになったと思っています」。
店舗をオープンしたタイミングは、折しもコロナ禍による緊急事態宣言下。企業のイベントが軒並み中止になり、売上げはゼロに。そこで、個人を対象にした記念日・ギフト需要に切り替え、ネットショップも立ち上げた。「不測の事態を想定し、複数パターンの事業計画を作っていたから焦らずに済みました」。開店当初は売上げが安定しないことを考え、勤めていた仕事も辞めずに続けていたという。
今はイベントも戻りつつあり、mori cafe に専念。個人・企業を問わずオーダーメイドを受け付けるほか、カフェスペースではお菓子に合うコーヒーを提供する。メニュー開発など、コンサルティング的な案件も増えた。でも、拡大は考えていない。「コストパフォーマンスより完成度。一人でできる範囲のことを、長く続けていきたい」。気負いのない笑顔の裏に、クリエイター魂が覗く。
(取材・文/衛藤真奈実 写真/福永浩二)
【 開業資金 500万円超 】
借入500万円の内訳は、建物の改装に300万円、中古で探した冷蔵庫やコンロなどの厨房機器に100万円、その他の備品に100万円。「『開業時は想定外の費用もありえる』という公庫の担当者さんのアドバイスに従い、借入をしておいて正解でした」(森氏)
【 店舗デザイン・設備 】
元は住宅として使われていた長屋を、大工の親友と一緒にリノベーション。壁の塗装など、森氏も作業に参加。机と椅子は当時の勤務先から譲ってもらったものをカスタム。存在感のある4つのペンダントライトは、友人たちと手づくりした。
【 開業までに要した期間 約1.5年 】
カフェ開業をめざし、セミナー等に参加したのは5年以上前。「オーダーメイドで手づくり、工房メインのカフェ」というコンセプトを決めてから、店舗探しに約1年。イートインやテイクアウトも考え、「大阪市内、駅近、家賃10万円以下」が譲れない条件だった。改装工事は約3か月。
【 「あきない虎の穴」担当者からのコメント 】
素直で明るくて真っすぐで、人を幸せにする笑顔とハッピーオーラを持った森さん。その人柄と笑顔が自然と周りの人たちを惹きつけ、応援団が増え、見事に幼いころからの夢を叶えられましたね。「虎の穴」を受講してから5年間、色々な経験をする中で見つけた「自分らしさ」が詰まったお店で、自然体で気負わず無理せずできる範囲でというスタンスが居心地のいい雰囲気を作っていると思います。あと、事業計画書作成講座で苦手な数字を克服したのも大きかったですね!(大阪産業創造館 創業支援チーム 浜田 哲史)
【 あきない虎の穴 】https://www.sansokan.jp/tora