【飲食店開業への道】廃館した人気ホテルの味を再現。常に進化途上にある「ビストロバルJIN」
JR大阪駅からひと駅の近さながら、落ち着いた雰囲気の塚本エリア。立派な梁の見える古民家風の開放的な空間に、価格やブドウの種類が直接書かれた空のワインボトルがずらりと並ぶ。今はなき六甲オリエンタルホテルで、長年シェフとしてフレンチを中心に手がけていた森下氏が経営するワイン酒場だ。気取らない雰囲気の中で、ワインに合う肉料理やピザ、パスタなどを楽しむことができる。
魚料理が得意でロゴにも使用したが、顧客の声に応えるうち、肉料理が増えていったそう。
ポテトサラダやローストビーフはホテルのレシピを再現。手ごね生地のピザやパスタに合わせたソースも、基本はホテル仕様だ。「独立するにあたり、ホテルで出していたような料理をもっと気軽に味わってほしいという思いがありました」。ホテルの閉業後、本格的なフレンチレストランでの修業や、阪神甲子園球場のプレミアムラウンジの立ち上げにも携わり、着々と開店に向けた技術や知識を身に付けていった。
大阪産業創造館の飲食店開業サポート事業「あきない虎の穴」講師の著書を通じて同プログラムを知り、受講。研修先の洋食店では、共に夢を持つ仲間や取引業者など、人脈を広げることができたという。「開店には大きな資金も動きますし、失敗を恐れる気持ちがあったのですが、研修先のシェフと話すことで思い切ることができました」。
代表 森下 政敏氏
最初に店を構えたのは、飲食店がひしめく天満エリア。東京に最新の流行を探りに行き、当時目新しかった「がぶ飲みワイン」スタイルを選んだ。おつまみの落花生の殻はそのまま床に落としてもらい、ワインリストではなくボトルを並べるやり方も、東京の店を研究して取り入れた。
人材が育つと、店長として店を任せ、自身は新店舗へ。そのようにして、2013年に塚本、2015年に野田に同形態の店舗をオープン。塚本店ではファミリー層が多いエリア特性に合わせ、2階に予約制の個室を設置。おもちゃを置きキッズスペースを用意したところ、家族連れがリピートしてくれるようになった。競合の多い天満店は、その後、似たような店が増えてきたため、貝専門店への業態変更にも踏み切った。
おうち感覚でくつろげる個室。おもちゃは常連客が置いて行ってくれることも。「お客さんの子どもたちの成長を見るのも楽しみですね」。
コロナ禍ではあまりの苦境に辞めることも考えたという。しかし、森下氏はさまざまなアイデアで乗り切った。ローストビーフを使ったラーメンをメインにした昼営業、そして、自慢のトマトソースを使ったレトルトパスタソースへの挑戦だ。「冷凍と違い、製造工程でどうしても味が変わるんです。それでもいざという時の非常食にもなるレトルトで、添加物を使わず、自分の厨房で美味しいソースを作ってみたい。何度も試作し、1年がかりでようやく完成しました」。
廃館になった六甲オリエンタルホテルの味を、レトルトでも苦労して再現。
いま、「続けてくれてよかった」という声が原動力になっているという。「コロナ禍の爪痕は大きく、外食業界は元には戻らないかもしれない。でも、お客さんの応援あってこそ」と、今度は自身が後輩たちを勇気づけている。
研修や相談に来る後輩には、物件見学の同行や業者の紹介など惜しみないサポートを行う森下氏。
（取材・文／衛藤真奈実 写真／福永浩二）
【 開業資金 】 500万円
店舗+設備200万円、工事費100万円、運転資金200万円。借入はなく、すべて自己資金で用意した。
【 立地選定 】
馴染みがあり、何度か飲みに来るうちに気に入った塚本エリア。「あきない虎の穴」で知り合った社長が、自身のお店の隣が空くことを教えてくれたそう。「地元の方が中心。お客さんとの距離の近さや温かい雰囲気が好きです」。
【 店舗デザイン・設備 】
湯葉・豆腐料理店の居抜き。前オーナー手作りの梯子がいい雰囲気で、ここにしたいと思ったそう。建築デザイナーの親族をはじめ、エアコン設置、改装工事など友人・知人に手伝ってもらい、最小限の費用に抑えることができた。
【 開業までに要した期間 】 約8か月
【 「あきない虎の穴」担当者からのコメント 】
森下さんは、記事の中に出てくる「あきない虎の穴」立ち上げ時からご協力いただいていた受入店舗の最後の実習生です。開業を決意したのは、今も師匠と呼んでいる実習先のオーナーシェフの後押しが大きかったというエピソードは、同じシェフ同士だからかな～ということで、我ながらいいマッチングをしたなと（笑）。受け入れる側になった今では、その方の「イズム」を受け継いで、親身に相談に乗っていただいていると実習生から聞いています。引き続きよろしくお願いいたします！
（大阪産業創造館 創業支援チーム 浜田 哲史）
【 あきない虎の穴 】https://www.sansokan.jp/tora
ワイン&イタリアン酒場 ビストロJIN
代表
森下 政敏氏
事業内容／飲食店（ビストロバル、貝専門店）の経営、レトルト食品の販売
座席数／塚本店：1F 18席、2F 個室2室（3～8名用、9～15名用）
開業日／天満店：2011年5月24日（2018年4月5日に業態変更、現在は「天満 貝蒸屋」）、塚本店：2013年2月26日、野田店：2015年8月12日
