【飲食店開業への道】杜の灯珈琲がつむぐ新たなコミュニティ、古民家にアンティークが映える参道脇の珈琲店
近鉄藤井寺駅のほど近く、1500年という長い歴史を有する辛國(からくに)神社の参道脇。鎮守の杜に溶け込むように佇む古民家が、金子氏の経営するカフェだ。
店内は太い梁がわたる吹き抜けの開放的な空間。40年以上かけて集めてきた、柱時計や蓄音機、カメラといったアンティーク品が所狭しと飾られている。
長年会社員として勤めてきた金子氏。神社周辺の雰囲気が好きで、休日の度に散歩に来ていたところ、長らく空き家だったこの建物が気になるように。「ロケーションに惚れ込んでいたので、ここで好きなコーヒーを出す店ができればと夢が広がっていきました」。
苦労して所有者を調べ、交渉から入手までに約1年。その間、3年早い定年退職を決め、飲食店開業サポート事業「あきない虎の穴」に参加。飲食業界は未経験だったが、開業・運営のノウハウを一から学んだ。
建物はできるだけコストを抑えてリノベーションし、店内を彩るアンティーク品の販売もできるよう道具商としての資格を取得。「いつか」と思っていた夢は一気に現実となった。
豆を挽くところから接客までのすべてを一人で完結できるように、メニュー構成を吟味。メインとなるコーヒーはオリジナルブレンドを複数用意し、種類により抽出時間を変えるなど、独自の淹れ方にこだわる。
新しいメニューを考えるのに苦労しているが、人気メニューの自家製シフォンケーキをアレンジしたアフォガートを開発するなど、日々工夫を重ねている。「あきない虎の穴」では仲間や先輩との出会いも貴重なものに。料理講師をする同期にケーキ作りを習い、店舗を持たない料理人の同期とコラボレーションする「間借り食堂」を実施。
また、子どもから高齢者まで、「地域の人々が気軽に訪ねられる居場所に」という思いを実現するために、音楽会などのイベントを開くほか、子ども食堂やフードパントリーに場所を提供。店内の一角は、教室等の集まりに利用できるレンタルルームとしても運用する。
「開店を決意してから、いろいろな人との出会いがつながり、スムーズに物事が流れました。同じように、この店が媒介となり、人と人がつながる後押しができるといいなと思います」。
現在、「あきない虎の穴」の受講生をインターンシップで受け入れる側となった。「長く続けていくことは厳しい業界。それでも、他では得られない楽しさがあります。頑張っている人のことは全力で応援していきたい」と話す。
(取材・文/衛藤真奈実 写真/福永浩二)
【 開業資金 1,500万円超 】
うち建物関係(入手、残された荷物の処分、リノベーション等)で1,100万円。借入はせず退職金と貯金から用意。「妻には仕事があり、子ども2人はすでに独立。だからこそ、営業時間が激減したコロナ禍を乗り越えることができました」(金子氏)。
【 店舗デザイン・設備 】
築80年を超える古民家を、知人から紹介してもらった大工さんと二人三脚でリノベーション。古い建具の再利用やベニヤ板+クロスの内装でコストを抑えつつ、落ち着きあるインテリアに。子ども食堂ができるように選んだガスコンロなど、厨房機器はインターネットで探した。アンティーク品の整備も行う。
【 開業までに要した期間 約1.5年 】
建物の入手に約1年。登記簿を調べて所有者に連絡を取ったところ、ちょうど処分を考えていたタイミングで、現状渡しの条件で手に入れた。車が入れない路地に面しているため、片付けや工事には手間がかかったが、現在も自身で修理しながら大切に使っている。
【 「あきない虎の穴」担当者からのコメント 】
古民家をリノベーションしてカフェを開業するという、「みんな憧れるけど現実はなかなか厳しい開業モデル」を考えていると聞いた時は正直「止めなければ」と思いましたが、特殊物件かつ、生活費の担保もある程度できていると聞いてから「どーぞやってください」となりました(笑)。開業してからは、同期メンバーやインターンで受け入れた受講生とのコラボイベントなど、人生経験豊富で懐の深い金子さんならではの企画も定期的に実施されていて、地域に愛されるお店になっていると思います。テレビ番組に登場する日も近いかも(笑)。
(大阪産業創造館 創業支援チーム 浜田 哲史)
【 あきない虎の穴 】https://www.sansokan.jp/tora
杜の灯珈琲
金子 佳彦氏
https://morinohi-coffee.jimdofree.com/
事業内容/喫茶店の経営、古道具の整備・販売
座席数/2人席✕3、4人席✕2、洋室(レンタルルーム)6人席/2人席
OPEN/2018年2月