【飲食店開業への道】セカンドキャリアは自分で自由に。地元・九州の味を届ける「博多もつ鍋と串焼き くしぼんず」

駅前からアーケードや路地に沿って多くの飲食店が立ち並ぶ街、十三。駅東口から徒歩2分、「博多もつ鍋と串焼き くしぼんず」は、和モダンなインテリアにジャズが流れる落ち着いたお店だ。店主の柴田氏は熊本出身。自ら九州で仕入れてくる焼酎に合わせて、もつ鍋や馬刺し、からし蓮根などの九州料理が味わえる。

公務員、大手小売の管理部門勤務を経て、40代半ばからのセカンドキャリアを模索していた柴田氏。「60歳まで組織の中にいるより、何か自分で事業をやってみたい」と早期退職した。その頃、行きつけだったバルの同い年の店主が、飲食店開業サポート事業「あきない虎の穴」の卒業生だと知る。いろいろと教えてもらい、故郷の九州料理をメインに据えた飲食店を開こうと決めた。

「大阪には九州と縁のある人が多くて嬉しい」という代表の柴田氏。前職で全国各地を飛び回っていたので、九州以外の話題も豊富だ。

「起業はもちろん、飲食業界も初めて。『あきない虎の穴』で飲食店開業に必要な知識を学び、店舗実習で訪ねた焼き鳥店で経営や接客を間近で見ることができたのは、貴重な経験になりました」。

一番苦労したのは物件探しだという。すでに退職していたので時間の余裕もあり、勧められるたびに見に行くうちに、見学した物件数が100件近くにまでなった。最終的に決めたのは、想定外だった十三エリア。「阪急の京都線・神戸線・宝塚線が通るので多方面から集客が見込めて、店の前の人通りも多く、初心者にはやりやすそうだと感じました。朝・昼・晩と実際に滞在してみて、街のイメージも良かったんです」。

開店から6年は、今と反対側の西口駅前「しょんべん横丁」にある10席の小さな店舗を一人で切り盛りしていた。コロナ禍でチェーン店が撤退し、好立地の現在の店舗を借りて2店舗体制に。しかし、コロナ禍明けの客足の戻りは思っていたより鈍く、新店だけに絞ることを決め、移転した。「同じ十三駅前でも、面する道路幅や席数が違えば、集客の仕方が変わることを実感しています」。アルバイト5人を抱え、雇用に伴う業務や教育も加わった。マニュアルやルールを作らず、「自分なりのやり方でカッコ良く、スマートに仕事をしてほしい」と伝えている。

インバウンド向けのメニューは英語と韓国語の2種類。外国人にも日本語でオーダーしてもらいたいと、ローマ字表記を大きく記載している。「楽しい体験にしてほしいという気持ちと、アルバイトのスタッフにも理解しやすいようにという実利的な面も」。

柴田氏自身も、一番の面白さは「自分で考えて、試行錯誤すること」と話す。会社員時代と比べると拘束時間は長くなり、休日も少ない。それでも、仕入先の開拓からメニュー考案、店舗作りまで、自由に決め、PDCAを回して改良を重ねている充実感がある。「ストレスはゼロ」。その言葉が独立の満足度を物語っている。

（取材・文／衛藤真奈実　写真／内山光）

【　開業資金　】　800万円
日本政策金融公庫からの融資500万円、自己資金300万円。「手元にお金がある安心感が大切」。無理に自己資金で賄うのではなく、融資を受け、きちんと返済していく実績作りも重視している。

【　立地選定　】
福島、天満、京橋、南森町、本町などのキタ主要エリアを検討。「物件選びに正解はない。時間の余裕があったことで余計に決めきれず、時間がかかりました」。100件近く見た中から、知人の紹介で「十三」に初めて足を踏み入れる。現地に幾度となく足を運び、街の雰囲気などを確認して決定。結局、自分自身が納得することが「正解」になる。

【　店舗デザイン・設備　】
現在の店舗は設備や什器がほぼ付いた状態で借りることができた。内装は、大阪産業創造館の若手経営者・後継者の育成プログラム「なにわあきんど塾」の卒業生に依頼。

【　開業までに要した期間　】　約3年
「すぐに事業が軌道に乗るわけではないだろう」と退職時に数年分の生活費を用意していたため、焦らず準備することができた。

周辺に多い大衆酒場や立ち飲み屋、チェーンの大箱居酒屋とは違い、落ち着いた雰囲気の店内に。

【　「あきない虎の穴」担当者からのコメント　】
めちゃくちゃ物件探しに苦労していたイメージの柴田さん。決まるまで3年近くかかったはずですが、諦めずに探し続けられたのはやりたいことが明確だったからでしょうね。ぶっちゃけ、妥協しかけてた時もありましたが、最終的にいい物件に出会えましたし、粘り勝ちでしたね！コロナ禍での2軒目の出店、創業店を移転しての再出発の時にも色々ご相談いただきましたが、物件探しのときに諦めない姿勢を目の当たりにしてるので、全然心配してませんでした！（大阪産業創造館 創業支援チーム　浜田 哲史）

【 あきない虎の穴 】https://www.sansokan.jp/tora

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