ストーリーと仕掛けを一体化 映画の世界に入り込む「体験型シネマ」

ドアを開けた瞬間、映画の世界に入り込んだような没入感に包まれる。そんな不思議な空間が、アニメショップがひしめく大阪・日本橋の一角にある。株式会社スタジオエスケープが提供する「体験型シネマ」のスタジオだ。創設者はロンドン出身のBen Daggers(ベン ダガス)氏。スタジオを運営しながら、マジシャンとしても活動している。

代表 Ben Daggers氏
「子どもの頃、さまざまなミッションをクリアするパソコンゲームでよく遊んだ」というBen氏は、大学で言語を学び、ドイツ語、中国語を習得し、次に日本語を学ぼうと2011年に来日した。その数年後、転機が訪れる。「弟がオランダで体験した謎解きゲームがすごく楽しかったらしく、『一緒にやろう』と言ってきたんです」。2人は母国イギリスで人気を集めていた謎解きゲームを体験。ある“違和感”を覚え「自分たちなら、もっと面白いものが作れる」と確信する。その日の夜には、頭の中で1作目のストーリーの半分が完成していた。

日本に戻り本格的にゲーム制作を進めた2人は、2017年に開業。当時、利用者の大半は訪日外国人で「最初の3か月間、日本人のお客さまはゼロだった」という。その後、口コミやアワードの受賞をきっかけに日本人の利用者も増え、現在に至る。
そんなスタジオエスケープがこだわる没入感の原点は、イギリスのゲームで感じた違和感にある。「ストーリーの設定と、謎解きの仕掛けのギャップが気になったのです。例えば海賊船が舞台なのに、そこには絶対に置いていないようなパズルがありました。私たちは、お客さまにそのようなギャップを感じさせないよう、ストーリーと仕掛けの統一感にこだわりました」とBen氏。

そのこだわりは、スタジオの細部にまで表れている。大正時代の日本が舞台の「漆黒の悟り」では、当時の建築を研究するために京都へ足を運び、古い家具や小道具なども買い集めて内装を作り込んだ。また、イギリスのスパイをテーマにした「女王と国のために」では、スパイ映画に登場するような機器を用いて謎を解いていく。追求したのは「難易度」よりも「リアリティ」だ。


「難しすぎても簡単すぎても楽しめない人が出てくるので、そのバランスはとても難しい。だから私たちはストーリーに没入できる環境を作りつつ、ヒントを散りばめることで初心者から上級者まで楽しめるようにしています」と戦略を語る。自社のサービスを「謎解きゲーム」ではなく「体験型シネマ」と呼ぶ理由がここにある。ヒントを出しながら最後まで体験できる設計で、ほとんどの利用者がミッションを達成しているという。

「現在、新しいメニューの制作も進んでいる」とBen氏。その創作への関心はゲームだけにとどまらない。数年前からは本業と並行して短編小説の執筆にも挑戦し、文学コンテストでの受賞経験もあるという。「いつかビルの全フロアを使ったゲームや、滞在時間すべてが謎解き体験になるホテルなど、大規模なコンテンツも作ってみたい」と夢は尽きない。

(取材・文/福希楽喜 写真/福永浩二)









