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棒1本からはじまった “好き”が生んだ熟成の楽しみ方

2025.10.03

蒸留されたばかりのウイスキーの原酒は、無色透明で荒々しい味がする。これを樽の中で長期間寝かせると、琥珀のように色づき、まろやかで複雑な味わいへと変化していく。その樽の力を家でも楽しめたら――。そんな発想から生まれたのが、ウイスキーに酒の貯蔵に使われた樽の切片である“棒”を入れて熟成させる「TARUBAR(タルバー)」だ。1cm角、10cmの長さの棒をウイスキーの瓶に入れて待つこと2週間。「あのウイスキーがこんな味に」という驚きを一度味わえば、沼にハマる。

代表取締役 山本 崇一郎氏

コロナ禍の時期に家飲みが増え、ウイスキーを頻繁に飲むようになった山本氏は、あるアイデアを思い付いた。「ウイスキーは熟成させた分おいしくなるが、その分値段も高くなってとても手が出せない。それならば、樽の棒を入れてみてはどうか」と。国内のウイスキーメーカー各社に樽の提供をお願いしてみたが、「個人には提供できない」と軒並み断られた。そこで、ウイスキー樽の本場はスペインだと聞き、スペインの樽メーカー3社に打診したところ1社から返事があり、シェリー樽を入手できた。曲がった木材を扱える木工所を見つけるのにも苦労したが、大阪・大東市の木工所が協力してくれた。

実験的に試したところ、風味が「全く別物になる」ほど変わることを発見し、小躍りした。シェリー酒樽だけでなく、さまざまな樽による味わいの変化を楽しんだ。当初は趣味のつもりだったが、愛好者から背中を押され「好きな道をとことん極めたい」と会社を退職して起業することを決断。SNSを立ち上げ、ビジネスをスタートさせた。SNSでTARUBARの可能性を発信し、2024年10月のインスタライブで満を持して発売したところ、初回100本を完売した。

大切にしているのは愛好家とのつながりだ。Instagramでフォローしてくれた人には必ずDMを送り、毎週水曜日21 時からインスタライブを実施する。「こんな酒の樽を試してみたらどうか」と提案があれば取り寄せて、オンラインで味見をしあう。「樽の種類とウイスキーの種類のかけ合わせは無限」と、その可能性をファンとともに楽しんでいる。また、「熟成ノート」という評価シートを作成し、ファン同士で情報共有できる仕組みも構築。今後はファン同士の横のつながりが生まれるようなオフラインイベントの開催も予定している。

熟成ノート

現在はシェリーやラムなどの樽から9種類の製品を販売しており、今秋からフランスの有名ワインシャトー、さらには大阪のカタシモワイナリーの樽の2種類が加わる予定だ。「将来は日本の大手メーカーのウイスキーの横にTARUBARが並ぶことが目標」と語る。そのために、「“うちと組んでみたい”と言わせるほどのブランド力をつけたい」と、さらにコアなファンを増やしていこうとしている。

(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)
※掲載写真は原則編集部にて撮影していますが、取材先企業からご提供いただいた写真が含まれている場合があります。

株式会社4B

代表取締役

山本 崇一郎氏

https://taru-bar.com

会社概要/TARUBARの製造・販売