関西の企業にAIの活用を提案し未開拓領域を切り拓く
関西でWEB制作、サーバ構築・運用、システム構築を手掛ける3社の経営者が、デジタル分野における新たな成長市場としてAI(人工知能)に着目し、3年前に立ち上げたのが株式会社お多福labだ。
まずはデータサイエンティストなど専門領域の人材を採用。19人の技術者のうち5人を外国人が占め、その内訳はフランス人3名、ドイツ人1名、アメリカ人1名という陣容だ。
「AI技術に関しては欧米、中国が進んでいる。世界の最先端のAI技術に目を配りながら、日本、とくに関西においてはまだ未開拓領域といえるAI領域でビジネスチャンスを広げたい」と羽場氏は語る。
優秀な人材の採用と合わせて、同社の強みのもう一つがAI技術の専門家との連携だ。
世界コンピュータ将棋選手権で優勝実績を誇る将棋AIエンジン「やねうら王」の開発者である磯崎元洋:やねうらお氏、ロボティクス、機械学習、脳型情報処理の研究をする大阪大学数理・データ科学教育研究センターの高野渉特任教授を技術アドバイザーに迎え、AIを使った新たなサービス展開をめざしている。
AIは「過去のデータをもとに未来を予測する技術」だけに膨大な過去のデータベースが必要とされる。
大阪市立大学特任教授の橋本隆氏の依頼で「遺伝関連性希少難治性疾患(症例数が少ない上に治りにくい病気)」の一つに含まれている、皮膚病の一種に向けた画像診断システムを開発(Medeeps/メディープス)。蓄積された臨床画像をAIが学習することで、病気の診断サポートを可能にした。
その他にも株価、為替の数秒後、数分後の変化を予測するシステムや、職員のストレスチェックを行いアドバイスするシステムなどを開発してきた。
現在手がけるのがケアマネージャーの試験対策だ。依頼先の専門学校からWeb通信講座を設けるにあたってAIを活用できないかと相談を受けた。受験科目の中で過去の模試から得意分野、苦手分野を分析し、弱点を補う問題を出題することで合格率アップを狙う。
「関西にAI の開発会社が少ないことから、さまざまな業界の企業から相談を頂くためAIの分野や業界を絞らずにクライアントの課題を解決する開発を行っています」。
今後、強化していこうとしているのが自社開発だ。このほどリリースした接骨院向け姿勢測定システム「Posen(ポーズン)」は、姿勢を撮影後、分析診断をAI(人工知能)が瞬時におこない、身体の歪みを数値化することで視覚的に身体の歪みを把握できるサービスである。接骨院は治療箇所や状態を患者と共有できるだけでなく、施術時間を短縮化し回転率に寄与する。
今年は阪大の高野教授が持つ関節点の動きから人間の動作を特定する技術を生かしてシステムの商品化を進める。第一弾として介護施設向けに、入所者の1日の行動をテキスト化し、介護日誌を書く作業を自動化するシステムを開発中だ。
ただ、「関西の企業の間ではAI に対するニーズがまだ小さく、現在は首都圏のAI開発会社とのパートナーシップや顧客開拓をしているのが現状」と羽場氏。「まずは困りごとをヒアリングしたうえでAIを活用した課題解決策を提案していきたい」と関西でのAIニーズの掘り起こしに努める。
また関西の経営者に「AI で何ができるのか」を知ってもらうべく毎月1回セミナーを開催していく。
(取材・文/山口裕史)