捨てられる木を外貨に変える!創業117年の老舗商社が挑む林業再生
政府が農林水産物の輸出拡大を推し進める中、林産物の輸出額はこの10年で約3倍に伸びている。この動きにいち早く取り組んだのが、2010年に国産木材の輸出を事業化した瀬崎林業株式会社だ。創業は明治41年。当時は木製だった電柱などの卸販売に始まり、その後も取扱い商材を徐々に広げてきた。
1960年には日本で初めてニュージーランド産ラジアータパインの丸太の扱いを開始し、木材輸入の道を切り拓いた。さらに1998年には世界有数の製材企業であるチリのアラウコ社と直接貿易を開始。加工賃も含めてコストを抑えられるチリ産の製材に輸入商材をシフトし、産業・物流用木材として国内企業に販売する事業を拡げていった。
一方で同社では、伐採されたまま捨てられていた間伐材の有効活用や、縮小が見込まれる国内市場への対応を模索していた。そうした中で着目したのが、国産材の丸太輸出である。これまで輸入時の荷役業務を担っていた港湾業者に、今度は輸出業務を依頼。製材への転換後も丸太の取り扱いが残ることで、港湾業者にも新たなビジネス機会が生まれた。瀬崎林業にとっても、これまで築いてきた関係性を活かすことで、輸出事業へのスムーズな移行が実現した。

チリのアラウコ社からの製材を載せたバルク船。
「港湾業者との古くからのつながりが大きなアドバンテージになった」と振り返るのは、代表取締役の遠野氏。輸出事業が始まった翌年、2011年に入社。海外市場の開拓に向け、専門商社や華僑などとのネットワークを地道に築き上げ、事業の拡大に貢献してきた。その功績が認められ、入社からわずか9年後の2020年に創業家以外では初となる社長に就任した。
その遠野氏のモットーは「価値を決めるのはお客さま」という考え方。「日本では柱に最適な小径の木が重宝されますが、海外では活用の幅が広い大径材が好まれます。日本の常識を捨て、海外市場のニーズに合わせた“マーケットイン”発想の販売戦略を重視しています」と語る。
2010年に台湾向けの丸太から始まった輸出事業は、2013年には中国向けのバルク船での輸出、2017年には製材輸出へと幅を広げ、2013年に約6万㎥だった輸出量はその後の10年で約18万㎥に拡大。原木輸出量は5年連続で業界トップだ。その実績から、2025年3月には「近畿農政局輸出に取り組む優良事業者表彰」において局長賞を受賞。遠野氏が大切にする“マーケットイン”発想で輸出先国のニーズを取り込んだことが評価された。

輸入した製材の熱処理窯を各港に整備している。
現在の主な輸出先は中国、台湾、韓国だが、今後はより物価の高い地域への販路拡大も視野に入れる。一方で輸出先の選定は輸送費に大きく左右されるという。「木材は船で輸送するため、ある程度近隣の国でないと事業として成立しません。日本は上海まで船で3日という距離にあり、中国向けの輸出では非常に有利ですが、それより遠い国については輸送費とのバランスを精査する必要があります」。この他にも国家間の検疫制度や、港湾の整備状況など、輸出事業にはさまざまな要素が影響を与える。
「世界的に木材需要が伸びる中、伐採可能な植林木を豊富に持つ日本には大きな優位性があります。このチャンスを活かし、林業に関わる人たちが適正な利益を得られる仕組みを築いていきたい。大きな夢を語るなら、日本の林業再生に貢献していきたいですね」。

代表取締役社長 遠野 嘉之氏
(取材・文/福希楽喜)