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“聞こえない音”が社会を支える――振動計測で守る未来の安心

2025.06.03

「音=空気の振動」と小学校の理科で習ったことを覚えている人も多いだろう。この「振動」を深く探究していくと、幅広い産業分野の課題解決につながる。それを体現しているのが、振動・騒音の計測および解析を専門に手がける国際振音計装株式会社だ。産業用の機械や車両など、あらゆる構造物の振動を計測し、そのデータを基に設計のシミュレーションから各種試験、稼働状況のモニタリングまで幅広くサポートする。

創業は1973年。振動試験装置のメーカーに勤めていた3名の社員により設立され、当時から三菱重工が製造するさまざまな構造物の振動試験に関わってきた。事業領域の広い顧客を支えることで、国際振音計装も多くの分野で計測技術を磨いてきた。

振動レベルの時系列変化を視覚的に表現するカラーマップ。

伝達関数も取得しているため、振動モードの可視化も可能だ。

「例えば発電プラントなら国内100か所以上に弊社の計測システムが入っています。発電所ごとに異なる仕様に合わせて計測方法やアラートの設定などを細かく調整しています。また、造船所ではクランクシャフトのねじり剛性試験に、振動計測の技術が使われています」と語るのは同社代表の貴傳名(きでな)氏。ほかにも、JAXAと三菱重工が牽引する宇宙開発の分野において、ロケットが大気圏を出る際に受ける振動への耐久性テストで重要な役割を果たしている。

また、振動から発生する「騒音」の試験にも同社の技術は欠かせない。発電所の建設や高速道路の夜間工事に際し、どの範囲に、どの程度の騒音被害が生じるのか、またその騒音が振動に起因するものかどうかを評価し、その結果に基づくコンサルティングも行っている。

実環境に近い振動を再現し、製品や構造物の信頼性評価を可能にする。

そんな同社の強みは、加速度センサや圧力センサを駆使した振動計測の技術もさることながら、計測したデータの“処理”にあるという。アナログな計測と手作業でのデータ集計が一般的だった1990年代、パソコンの普及を見越していち早くソフトウェア開発に着手。以来、地道にノウハウを積み上げ、現在は最大128チャンネルの信号をリアルタイムに分析できるパソコン一体型のシステムを持つ。振動試験を行う現場で即座に分析結果を表示できることで、試験の精度向上やリードタイムの短縮につながっている。

これらの優位性を維持するうえで不可欠なのが、人材である。「入社後の育成には力を入れている」という同社は、兵庫県・加古川市にある試験所内に振動・騒音の基本原理を学ぶ実験工房を持ち、座学と実験の両輪で専門人材を育てている。資格取得に報奨金を設けるなど、待遇面でもスキルアップを支援。ソフトウェア担当者が情報処理の資格を取得するなどの成果も出ている。

若手社員が基礎から振動を学ぶ、技術継承と育成のための実験工房。

この機運に乗じ、現在めざしているのが環境分野での実績づくりだ。国家資格である環境計量士の試験に3名の社員が合格し、自治体などの環境調査業務の受託に向けた体制づくりを進めている。「世の中には多様な環境問題がありますが、騒音も深刻な問題の一つです。その解決に弊社の計測技術と分析システムが有効活用される未来を描いています」と貴傳名氏はビジョンを語る。「三菱重工さんとの半世紀以上の取引が信用につながっている」という同社の飛躍は、産業の発展に加え、騒音に悩まされない環境づくりも叶えてくれそうだ。

左から、加古川営業所 係長 楠田 享平氏、代表取締役社長 貴傳名 確一氏、取締役 総務部長 檀上 孝之氏

(取材・文/福希楽喜)

国際振音計装株式会社

代表取締役社長 貴傳名 確一氏
取締役 総務部長 檀上 孝之氏
加古川営業所 係長 楠田 享平氏

https://www.svr.co.jp

事業内容/振動・騒音の試験・計測・評価・コンサルティング