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【其の九】太洋マシナリーの災害時の備え。もし津波で工場が流されたら事業再開のために何が必要なのか。

2023.03.20

自然災害や感染症、セキュリティ事故などへのリスクマネジメントの一策として策定する企業が増えているBCP(事業継続計画)。重要なのはわかるけれど、実際どうやって作ったり使ったりするの?とわからないことだらけな方も多いハズ。このコラムではそんなBCPの策定・運用に取り組む大阪の中小企業のエピソードをご紹介します。

【其の九】
津波で工場を流されたら。事業再開のために必要なものとは?

太洋マシナリー株式会社は主に鋳造工場で使用する設備機械や産業廃棄物の選別装置の設計から製造、販売までを行っている。ものづくりを下支えするメーカーであり、今年で創業96年を迎える。

BCPを策定したのは2017年。大阪湾岸に位置するため、南海トラフ地震に伴う津波を最大のリスクにとらえた。「ここは4mの津波が到達するまで2時間の場所と言われています。その2時間で何ができるのかを考えました」と代表の渡辺氏。

同社のそばには千歳橋という長さ約900mの橋がある。海面からの高さは約28m。「津波がくればうちは工場の骨組みすら流されてしまうから」と避難場所をこの橋の上に決め、工場横の橋脚階段を社員全員が上り下りする訓練を行っている。また、備蓄した食料品や重要備品を橋の上へ運ぶことも想定している。「タイムリミットは2時間。その間に工場の棚から食料と水を下ろし、データメモリーをポケットに入れ、NAS(ファイルサーバー)やファイルを鞄に入れて橋の上まで走るんです」。

「実際に津波が来ると感じた時に、一度避難した橋の上から下りて重要備品を工場に取りに戻れるかどうか」と渡辺氏は緊迫した状況を想像する。「でも訓練で必要な時間の感覚を体験しておけば、どこまでならできるかその場で判断できる」と訓練の重要性を説く。

もうひとつ、同社が備えているものがある。「お金です」と渡辺氏。「津波で工場ごと失ってしまったらお金で買い直すしかありません」。事業を継続するために工場を建て直し、PCや設備や車両を買い直す。「うちは他所に代替工場がないため、この場所で事業を再開しなければならないのです」。そのためにBCP対策用資金を毎月積み立てている。

訓練の様子

そんな同社は2018年の台風でBCPを発動。深夜に通過した台風で門扉が飛ばされゴミが敷地内に散乱し、電源が喪失したため復旧に発電機を利用した。BCPの策定以前には想定していなかったことが、実際の運用でやり方と改善点が見えたという。

「事業にも“まさか”の坂はくる」と渡辺氏は言う。温度差はあるものの、BCPの策定や訓練を通じて、社員さんにも「何か起こることは十分あり得る」という意識が浸透し始めている。「そこを経営側が引っ張っていくしかない」。

今後の課題は見直しにかかるマンパワー。重要備品の再精査、方法の改善など定期的な見直しには時間と労力がかかる。本業の忙しさやメンバーの入れ替わりで見直しの時期がずれたこともある。「BCPには手間がかかる。それでも一定規模の会社で一定数の顧客を持っているのならやるべきだと思います」と渡辺氏。

同社にとって事業の一つに納入機械の消耗部品の供給がある。「供給サイクルの一部を担う当社には供給責任があります。そして従業員さんの暮らしを守らなければなりません」。BCPは会社が生き残る術のひとつなのだ。

(取材・文/荒木さと子)

 
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