≪講演録≫バイオ企業・林原の真実~世界的優良企業「林原」はなぜ銀行に潰されたのか?
≪講演録≫2014年7月24日(木)開催
【社長トークライブ】バイオ企業・林原の真実~世界的優良企業「林原」はなぜ銀行に潰されたのか?
グローバル・リサーチ・アソシエイツ代表 林原 靖 氏
“バイオの雄”として名を轟かせてきた岡山の世界的優良企業「林原」が突然、会社更生法を申請したのは2011年2月のこと。
銀行、弁護士、マスコミの“一方的”な攻撃にさらされた挙句、弁済率93パーセントという不思議な倒産劇があっという間に幕を引いた。
専務取締役として渦中に身を置いた林原氏が「不可解な破綻劇」の真実を語った。
林原は20年~30年ほど前に粉飾決算があった。その点については大変申し訳なく思っており、心からお詫びを申しあげます。ただ、直近のここ10年ほどの事業成績は快進撃を続けていたところでした。つまり20~30年前はそこに至るまでの先行投資の仕込みの苦しい時代で、10年ほど前からようやく回収期に入っていたというのが実態でした。
経営の要諦はスルー・プロスペリティ。儲けながら新しいことをやる、ということです。毎日の儲けの中から投資していくことが繁栄につながる。ただ、林原の研究開発はその範囲を超えたレベルでやらないといけないので、スルー・プロスペリティにならなかった。そこは大きな反省点です。
そして林原は3年前に突然破綻してしまった。破綻の責任は経営者にあるのですが、その破綻劇にかかわった弁護士、会計士、銀行、行政の動きを見ていると不可解なことがたくさんある。私たちが悪いところは悪いと認めたうえで、そこで起きたミスを知っていただき、その上で2度とこのようなことが起こらないようにするための教訓になればいいと考えています。
まるで生体解剖されたような気分
今回の会社更生法の弁済率の数字にまず注目してほしい。93%です。仕入れは全額払っているし従業員の給与も払っています。破綻時に一人も従業員を解雇していません。破綻の時点での債務は銀行、すなわち都市銀行と地方銀行の分しかなく、その額は1300億円。財産などを売り払った結果、銀行にしてみればそのうちの93%を回収できたわけです。
この数字については、私は200%くらい返せていたと考えています。なぜなら資産を極端に安売りしているからです。土地もごく短期間で入札も一切せずに叩き売っている。中国銀行の株式は13%分と大量に持っていましたが、TOBで市場の価格よりも1割強安い価格で売らされました。これだけまとまった株を持っていれば通常プレミアムがつくのですが、ここでも叩き売りをさせられました。子会社の事業価値もしっかり評価されることなく言い値で売られました。
会社更生法の弁済率は通常4割程度なので、93%というのは異常なほど高い数字です。しかも2011年2月に破綻して、最初は事業再生ADRという仕組みに載せようとして失敗した後、会社更生法に切り替えられて破綻からわずか10カ月後の12月には更正手続きが完了しました。管財人は、弁済率の高さと、短期間で手続きが済んだことについて胸を張っていますが、健全会社だったからこそそのようなことができたのです。
直近の10年間で借入金を350億円返していました。資産を売却して換金して捻出したのではなく、通常の商売で得た利益から返していました。この10年間で商売から得られるキャッシュフローは1000億円ありました。つまり毎年100億円のキャッシュを稼いでいたということです。その内3分の1は金利の支払いに充てました。次の3分の1は研究開発費に投資し、残りの3分の1を返済に回していました。そして3億円、5億円といった最終利益を出していました。そのまま順調に事業を進めていけばそのキャッシュは10年で1200億、1500億円になるところだったのです。社員もアクティブな気持ちで世界中に製品を展開していました。
つまり、財産を売ったり、事業をサポートしていただく姿勢があれば破綻は起こらなかった。なぜ、あわてて林原をつぶそうとしたのか。まるで生体解剖されたような気分です。
林原は1886年の創業。破綻した際に社長を務めていた林原健は直系の長男で、4代目の社長でした。私は弟で専務ですが、代表権を持っていたのは健ただ一人。
食品、医薬品の分野で世界初の成果を継続して出していました。病院で点滴を受けるときのブドウ糖は林原が世界で初めてデンプンから高純度のブドウ糖を造る技術を開発し、昭和35年に発売しました。特許が切れてからは過当競争になって林原では製造しなくなりましたが、現在世界中の病院で使われています。
デンプンからつくった高純度マルトースも病院で使われています。デンプンは粒が連なってできているのですが、それを酵素で切って一つ一つばらばらになったものがブドウ糖で、二つずつ切るとマルトースになる。糖尿病患者にはブドウ糖は使えない代わりに、マルトースを使います。
他にも低カロリーの甘味料のマルチトールは、キャンデーやガムの甘味料として世界中で使われています。プルランはデンプンからつくられる多糖類のプラスチックで主として医薬品カプセルの材料として使われています。糖転移ビタミンは、ビタミンCに糖をくっつけることで安定性を増したもので、医薬品や化粧品に使われています。このほかウイルス抑制因子のインターフェロンや新しい甘味料トレハロースも開発しています。小さな規模の会社だが、ブレークスルーを連続し世界に台頭していました。
世間は「林原は研究開発力の強さで儲けている」と言うがそれは間違いです。研究開発力と商売とは関係ない。会社全体の認識から言えば見事なマーケティングをしていたということです。日本、そして世界に広げていく見事なマーケティングのノウハウがあった。それは広報や販売の方法などいろいろあります。