【マーケティングセンスを磨く知恵袋〈1〉】ドラッカーをヒントに考える“マーケティングの本質”
新連載「マーケティングセンスを磨く知恵袋」
第一回「ドラッカーをヒントに考える、マーケティングの本質」
皆さん初めまして。四元と申します。今秋、大阪産業創造館のセミナーで講演する予定ですが、それまでに計6回の連載コラムを担当することとなりました。暫しお付き合いのほどよろしくお願いします。
今回はその第一回目。「マーケティングの本質」なんて大仰なタイトルですが、まずはマーケティングで意識すべき大切な心構えを、ドラッカーの言葉を引用しながらお話ししましょう。
ドラッカーといえばマネジメントや経営学の偉人として高名ですが、実はマーケティングに関しても示唆に富む言葉を残しており、例えば「企業の持続的な成長にはイノベーションとマーケティングが特に重要」だと指摘しています。
ただし、彼の「マーケティング観」はややユニークでして、「販売や営業を不要にすることが理想的マーケティング」とも説いています。なんだそりゃ?と奇異に感じる人も多いでしょう。一般的には、販促とマーケティングが同一視されることも多いですからね。ミソは「理想的」です。
結論から言うと、「消費者・顧客を『どうしてもこれが欲しい!』という心理にさせて、積極的に買いたい態度に仕向けておくことが理想的マーケティング」なのであって、その状況が作れなかった場合の残念なマーケティングが販促だという考え方です。つまり、「マーケティングの神髄は前哨の心理戦にあり」なのです。
さらにドラッカーは次のようなことも言っています(表現は私なりの解釈でやや変更)。
企業が売りたい・語りたいのは商品や機能。
それに対して、消費者が買いたい・知りたいのはベネフィットや感動。
これだけでは抽象的すぎるので、プレミアムビールを事例に説明しましょう。
プレミアムビールとは1970年代に麦芽100%・天然水など高品質を謳って生まれた新しい商品ジャンルで、販売不振が長らく続いたものの、約20年前の某ブランドのキャッチコピー「最高の週末」で改めて注目されて市場が急拡大しました。
ここから言えるのは、消費者が真に求めていたのは高品質ビールでなく、「仕事を頑張っていると自負する人が『我ながら良くやっているよ』と自身にエールを送りたい」という心情であり、その気持ちに寄り添った広告に触れることで「どうしてもこれを買いたい!」と感じずにはいられなかったという訳です。まさにドラッカーの教えを具現化した好例だと言えましょう。
とはいえ、ドラッカー流マーケティングの実践は容易ではなく、単なるノウハウの寄せ集めでは歯が立ちません。大切なのはノウハウではなく、消費者心理や状況に対する洞察であり、それは広くマーケティングセンスを意味します。
そのような思いを汲んで本コラムのタイトルを決めました。興味を持っていただけたら、次回もお楽しみに。
四元 正弘氏(四元マーケティングデザイン研究室 代表)
1960年神奈川県生まれ。東京大学工学部卒業。サントリー株式会社でワイン・プラント設計に従事し、発明協会賞を受賞。87年に電通に転職。メディアビジネスの調査研究やコンサルティング、消費者心理分析に従事する傍らで筑波大学大学院客員准教授も兼任。2013年3月に電通を退職し独立。主たる専門領域である消費心理・動向分析では日本の第一人者としてその分析には定評があり、このテーマでの講演多数。また地域ブランド開発も手がけ、多くの県や市町村の委員会などにも積極的に参加、ワークショップファシリテーションも行う。