【マーケティングセンスを磨く知恵袋〈3〉】物語マーケティングの起点 ~強み・顧客・ニーズの三位一体~
連載「マーケティングセンスを磨く知恵袋」
第三回「物語マーケティングの起点 ~強み・顧客・ニーズの三位一体~」
マーケティングにおいて「自分ごと化の実現」や「情緒的価値の伝達」が重要な目標であることに異を唱える人はいないと思いますが、いざ実現しようとすると具体的にどうすればよいのか悩んでしまいますよね。
そこで今回提唱したいのが「物語のマーケティング活用」です(以降は「物語マーケティング」と称します)。実際にマーケティング名著の中でも物語の有用性を謳う記述をしばしば目にしますが、次もその一つ。
“すべての有力ブランドには物語があり、マーケティング活動の大半は物語を供給することである”※1
このことを消費者視点で再考してみましょう。なぜ人は物語に触れることで買いたくなるのでしょうか?以下の一文が、この疑問を解き明かす大切なヒントになると思われます。
“製品の選択は広告の内容そのものよりも、連想される「理想の人生や自己像」に基づいて行われる”※2
つまり物語マーケティングの神髄とは、共感できる魅力的な「物語の主人公」に自己投影した消費者が、「商品も登場する物語」を通じて「商品の情緒的価値」を自然体に実感できた結果として、「どうしてもこれが欲しい!という心理」に至ることであり、これぞまさに「自分ごと化の実現」だといえましょう。
加えて、ポジティブと感じる対象に自然と誰でも魅了されるので、物語のポジティブ性も重要です。そう考えると物語マーケティングの基本要素は、「消費者が共感できる魅力的な主人公」ならびに「その主人公と商品のポジティブな関係」の二点に尽きるのでないでしょうか。
逆に、「ああなってこうなって……」的な一般的な意味でのストーリーのマーケティング的意義は乏しいと考えられます。そもそも物語マーケティングは小説の執筆を志向するわけではないのですから、簡単に終わって、最後は笑顔がこぼれるエッセーライクが好ましいといえましょう。
そこで物語マーケティングの起点として提唱したいのが、「商品の『強み』『顧客』『ニーズ』の三位一体」(以下、三位一体)のフォーマットです。本来であれば、「自らの強みは何か?」「その強みを高評価する顧客は誰か?」「その顧客の本当のニーズは何か?」の3つの課題を順次個別に検討したうえで、それらを整合的に統合した知見が三位一体なのですが、このコラムで詳細を語るのは字数的に難しいので、関心がある方は今秋大阪産業創造館で実施予定のセミナーを受講してください。※日時等の詳細は追って発表予定。
ちょっと脱線しますが、かのドラッカーは顧客理解の難しさについて以下の諫言を残しています。
“顧客は誰か? これこそ、最も重要な問いである。
答えのわかりきった、やさしい問いに見えるだろう。
しかし、実は違う。その答えで何をすべきかが決まる。”※3
そこで失礼を承知で言いますが、恐らく皆さんの顧客理解も高い確率で間違っています。顧客理解はビジネスの核心ですから、そこがズレていれば成果もあまり得られません。
でもご安心あれ。三位一体で考えれば、真の顧客像が否でも自然と浮かび上がってきます。
一例に第一回コラムで紹介したプレミアムビールの三位一体を示します。これは私が自主的に作成したもので、当該企業の資料ではもちろんありません。また、このように整理していたことも寡聞にして聞いておりません。
しかし、当時の優秀な担当クリエイターがこのように直感的に発想し広告に具現化したであろうことは、想像に難くありません。ちなみに後日、当該企業のマーケティング関係者にこの内容を講演した際には「なるほどねぇ。言われてみれば…」と共感されたことを付記しておきます。
これまでいろいろ述べてきましたが、物語マーケティングにとって三位一体はいわばプロット(企図、粗筋)であり、物語マーケティングの成否はこの三位一体が決めると言っても過言ではありません。
しかし、いやだからこそ三位一体を理解し明示するのはとても難しく、「強み」「顧客」「ニーズ」の三本の小さい針に一本の糸を同時に通すが如し。力業や表層的ノウハウではなく、まさにセンスが求められているわけです。
<参考文献>
※1)ジェラルド・ザルトマン「心脳マーケティング」(ダイヤモンド社,2005)
※2)アリス・M.タイボー/ティム・カルキンス編著ほか「ケロッグ経営大学院 ブランド実践講座」(ダイヤモンド社,2005)
※3)P・F・ドラッカー「マネジメント」(ダイヤモンド社, 2001)
四元 正弘氏(四元マーケティングデザイン研究室 代表)
1960年神奈川県生まれ。東京大学工学部卒業。サントリー株式会社でワイン・プラント設計に従事し、発明協会賞を受賞。87年に電通に転職。メディアビジネスの調査研究やコンサルティング、消費者心理分析に従事する傍らで筑波大学大学院客員准教授も兼任。2013年3月に電通を退職し独立。主たる専門領域である消費心理・動向分析では日本の第一人者としてその分析には定評があり、このテーマでの講演多数。また地域ブランド開発も手がけ、多くの県や市町村の委員会などにも積極的に参加、ワークショップファシリテーションも行う。