マーケティングセンスを磨く知恵袋

【マーケティングセンスを磨く知恵袋〈6〉】イノベーション理論で考える価値創造~新しい情緒的価値を新結合で作ろう!

2024.10.01

連載「マーケティングセンスを磨く知恵袋」
第六回「イノベーション理論で考える価値創造
~新しい情緒的価値を新結合で作ろう!」

とうとう今回で最終回です。価値は機能的価値と情緒的価値に大別できることは既に述べましたが、それを踏まえつつ価値創造について考えていきましょう。

マーケティングの、いや全てのビジネスの意義は価値をマネジメントすることに尽きますが、まず思いつくのは「既存の価値」をグレードアップさせるやり方でしょう。実際に大半の新商品はこの種のリニューアルによって生まれています。
しかしこの方法が有効なのは主に機能的価値であって、情緒的価値のグレードアップは非常に困難です。なぜなら、そもそも情緒的価値とは「心を刺激する何か」であって、中身を明瞭に把握したり、伝達したりすることが難しいからです。物語マーケティングを活用して、この問題への解決策を示したのが前々回および前回でしたが、それでも情緒的価値の本来的な曖昧さが解消されるわけではありません。

ですから結論を言うと、情緒的価値のマネジメントは「新しい価値の創造」以外にあり得ないのです。
もしも幸運にも情緒的新価値を創造できたら凄いことですよ。その曖昧性ゆえに、あとからの新規競合によって排除される悲劇はほぼ起こらず、その情緒的価値を最初に提起したパイオニアとしてブランド的な地位が安泰なのですから。つまり、必然的に強いロングセラーブランドになれるということでもあります。
具体的な名称は示しませんが、カップ麺やカジュアルウェアの某強力ブランドがまさに好例だと言えましょう。

さあ、ここからが今回の本番。新しい価値をどうやって創造するのか、という話です。
こう聞いて「無から有を生む」を思い浮かべた方も多いと思いますが、正直言ってそれは宝くじ一等並みにほぼ不可能です。
そこでまずはイノベーション(革新)の解説から始めましょう。

イノベーションという言葉をビジネス用語として定着させたのはシュンペーターという高名な経済学者ですが、彼は「非連続的な新結合」こそがイノベーションを生み出す原動力だと看破しました。オリジナル論文はかなり難読なのですが、私なりの解釈を交えて要点を以下に示すと・・・
イノベーションの本質は「無から有」では決してなく、既存要素からでも組み合わせ次第でイノベーションは生まれる。ただし、過去の延長線上にあるような組み合わせはイノベーションに値しない。
常識では考え付かないような新結合(≒珍結合)が案外シックリと収まって「ありそうで無かった」が生まれたとき、そこにイノベーションが自然と宿っているものだ。

まさに「目から鱗が落ちる」が如し。この考え方に立脚すれば、新価値創造のハードルもグッと下がったのではないでしょうか。
既存価値を、これまで関連して考えてこなかった「遠い何か」と組み合わせてみたら何が起きるだろうかと、まずは空想実験をしてみれば良いのです。で、面白い!と直感したら、あとは具体的に落とし込んでいく。
実際にマーケティング名著でも、新結合(あるいは珍結合)を推奨する名言は星の数ほどあります。

◎アイデアとは、既存要素の新しい組み合わせ以外の何物でもない
  ジェームス W.ヤング著『アイデアのつくり方』(CCCメディアハウス,1988)
◎重要なのは、「自分にとって意味のある何か」を与えることで生まれる、異なる考えの予期せぬ組み合わせ
  オグルヴィ&メイザー・ジャパン著/ブレア,M著『ブランディング360°思考』(東洋経済新報社,2003)

繰り返しになりますが、既存価値のグレードアップが困難な情緒的価値だからこそ、「既存の情緒的価値×新結合(珍結合) → 情緒的新価値の創造」を、ブランディングの起点として強く意識すべきだと考えます。
そのうえで、ようやく掴みかけている情緒的新価値を本質的にもっと理解し、さらに上手く伝えていくために物語マーケティングを活用すればより建設的になるのではないでしょうか。
そしてその帰結として、強いブランドとしての地位がやがて確立していくのだと私は確信しています。私が理想とするマーケティングの姿は、こういうことです。

擱筆の挨拶に代えて、以下のコトラーの言葉を以て本コラムを終えることにしましょう。

ブランド化ができていない商品はすべてコモディティにすぎない。
しかし、コモディティである現状をいたずらに悲観する必要は無い。
コモディティは、優れたマーケティングによるブランド化を待っているとも解釈できるのだから。

 フィリップ・コトラー著/ゲイリー・アームストロング著『マーケティング原理』(丸善出版,2014)

 
四元 正弘氏(四元マーケティングデザイン研究室 代表)
1960年神奈川県生まれ。東京大学工学部卒業。サントリー株式会社でワイン・プラント設計に従事し、発明協会賞を受賞。87年に電通に転職。メディアビジネスの調査研究やコンサルティング、消費者心理分析に従事する傍らで筑波大学大学院客員准教授も兼任。2013年3月に電通を退職し独立。主たる専門領域である消費心理・動向分析では日本の第一人者としてその分析には定評があり、このテーマでの講演多数。また地域ブランド開発も手がけ、多くの県や市町村の委員会などにも積極的に参加、ワークショップファシリテーションも行う。

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四元マーケティングデザイン研究室

代表

四元 正弘氏

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