マッスル株式会社の「ROBOHELPER SASUKE」が業界を一変させる、安心・安全なロボット介護機器の魅力
自力で身体を動かすのが困難な人を、寝たままの姿勢で“お姫様抱っこ”のように抱き上げ、車いすの上へやさしく着座させる。マッスル株式会社が開発した「ROBOHELPER SASUKE」は、介護者・利用者双方の身体的・精神的負担を軽減してくれるロボット介護機器だ。少子高齢化に伴う要介護者の増加と、職員の人手不足。介護現場が直面する難題の解決策の一つとして、注目を受けている。
寝ている人の下に敷いた専用シートの頭側と足側に2本のアームを差し入れ、シートごと抱き上げる仕組み。仰向けや横向き、肘や膝などの関節が曲がった状態でも、そのままの姿勢で利用できる。アームの上げ下げや傾きのコントロールは、レバーを使って片手で直観的に操作が可能。従来2人でやっていた作業が1人でラクに完結できる上、利用者にとっても無理な姿勢を取ることなく、安定した動きでケガなどのリスクを減らすメリットがある。
「筋肉のようにしなやかに動くロボットをつくりたい」という思いのもと設立された同社は、モーションコントロールのエキスパートだ。2010年上海国際博覧会で、協力企業と共に世界初の垂直移動が可能な人型ロボットを展示し、話題に。その技術を活かしたいと多方面からの相談を受ける中で、介護ロボットの開発に着手した。とりわけ介護者の身体的負担が大きな「移乗(乗り移り)」分野に集中し、2016年から「SASUKE」の販売を開始。開発・製造企業と医療・介護現場をつなぐ新たな架け橋となるよう、看護師・理学療法士・社会福祉士の資格をそれぞれ持つ業界経験者を集め、ヘルスケアに特化した部署を立ち上げた。
「『SASUKE』の販売を始めて7年、事故の報告はありません。操作も簡単なので、外国人や介護経験の浅い方にも使いやすいと思います」。そう話すのは、前職までは理学療法士としてリハビリ病院や訪問看護の現場にいた飛澤氏。どうしても業務優先になり、利用者や患者に合わせてもらうことが多い業界を変えたいという志を持って転職してきたという。
独自の「抱き上げ式」での滑らかな動きはもちろんのこと、現場経験者の発想から生まれた伸縮性に優れる専用シートも大きな特長。メーカーと共に生み出した特殊なメッシュ状の生地でできており、体圧がバランス良く分散され、転落や擦れなどが起こりにくい。皮膚が弱くても安心して使用でき、車いすに移ってからも敷いたままにしておけるため、作業の手間が減らせる。
何より大切にするのは、現場との連携だ。機器を導入した施設とは、使い方のデモやレクチャーから関係性が始まり、フォロー講習は何度でも対応。まめにコミュニケーションを取り、フィードバックを製品に反映してきた。片手操作や180cm・120kgまで対応可能なLサイズシートは現場の声から生まれたものだ。
「こういう時はこういう使い方をすると良いなど、機器の説明で終わらず具体的な利用シーンまで提案できるのが、私たちの強みです。私自身、介助で腰を痛めた経験もあります」。安全性が実証されるようになり、個人の在宅介護向けにも販路を広げている。ベッドから車いすへ移ることで景色が変わり、食事や入浴、運動などの活動へとつながる。介護業界の負担を減らし、利用者の世界を広げるために、全国各地を飛び回る日々が続く。
(取材・文/衛藤真奈実)