前田製菓株式会社のCMが切り開いた未来。地道な努力とクリエイティブな発想が生み出す“あたり前”の魔法
「あたり前田のクラッカー」。
世代を問わず、このフレーズを耳にしたことがある人は多いだろう。
そう、堺市に本社を構える菓子メーカー・前田製菓を全国区に引き上げた、人気CMで使われたフレーズだ。
同社の創業は大正7年。当初は問屋業が主力だったが、戦中戦後は乾パンの製造を中心事業に成長。そこで得たノウハウを活かし、現在に続くクラッカー・ビスケットの製造に乗り出した。
そして迎えた昭和37年。コメディ時代劇『てなもんや三度笠』の1社スポンサーに。あの有名なフレーズとともに、同社のクラッカーが全国へ広まった。
当時は、テレビの普及が急ピッチで進んだ時代。「時代の変化を見据えた先駆的な宣伝戦術が勝因だったのでは?」と考えたくなるのだが、事情は少し違ったようだ。
「当社は今も昔も、『地道に、細く長く』を大切にする社風です。そのため、テレビCMの提案をいただいたとき、『うちには似合わない』と、当時の社長はずいぶんためらったそうです。決して、これほどの効果を予測してのものではありませんでした」。
そう教えてくれるのは、専務の前田堅一朗氏。テレビCMの放映終了後もフレーズは人々の記憶にとどまり、商品とともに全国で愛され続けた。
とはいえ、CMのワンフレーズの力だけで商品と会社が半世紀も愛され続けることは難しい。
同社を全国区の企業たらしめているのは、実は、常に新商品を生み出していくチャレンジ精神なのだ。
同社では毎年、4~5種類の新商品を市場に投入している。そのなかで、翌年まで1つでも残っていれば“ヒット商品”だと言う。また、企画や試作段階で開発を断念した商品は毎年20~25ほどに及ぶ。
「大半の商品が日の目を見ず、ヒット作にもなれません。でも、歴代の社長はこれをムダとは一切考えず、『大いにチャレンジしなさい』と背中を押してくれました。これこそ、当社の一番の強みです」。
近年は社会の健康志向をキャッチし、ヘルシーな商品を開発。災害の多発といった社会情勢を受けて、長期保存ができる防災食としてのクラッカーも販売している。
これらの取り組みを引っ張るのは、20代の女性社員たち。会社全体でも、大半の社員は20~30代。100年企業でありながら、実は若手が引っ張るフレッシュな企業なのだ。
「フレーズに代表されるような昭和らしさを大切にしながら、SNSでの情報発信など、時代にマッチした取り組みを行うことが今の重点テーマです。クラッカーやビスケットは、日常に溶け込み、存在することが“当たり前”の商品です。それらを今後も絶やすことなく、安全にお届けすることを使命として頑張っていきたいです」。
(取材・文/松本守永)