「タケモトピアノ株式会社が挑む!中古ピアノを世界へ再生する理由」~世界60カ国へ届けるピアノの再生術と、CMで知られる企業の知られざる挑戦に迫る!
強烈なCMのイメージが先行して、中古ピアノの買取専門会社と思い込んでいる人もいるかもしれない。
タケモトピアノは中古ピアノを引き取った後、工場まで運搬し、数十年前の発売当時の姿に中身、外観ともに再現修復してから販売、出荷までを担う中古ピアノの再生販売会社だ。
買い取り、販売台数はじわじわと増え、今や年間3万台を超える。全て輸出され、販売先は60カ国に及んでいる。
「今伸びているのが経済成長の著しいベトナム市場向けです」と竹本氏。日本の子どもたちが鍵盤に込めた愛情はそのまま世界の子どもたちに受け継がれている。
サラリーマンをしていた竹本氏が、ピアノメーカーから声がかかり楽器店を始めたのが1979年のこと。
習い事としてのピアノが人気を集め、販売台数がピークを迎えた時期と重なったうえ、無償で調律するなど丁寧なサービスが評判を呼び、順調に売上げを増やした。
ほどなく、アメリカで中古ピアノがガレージで売られていることを知り、竹本氏はひらめいた。「中古ならば給料の何倍もするピアノが手に届きやすくなる。ブームが去れば使われないピアノも増えていくだろう」と。
「新品だけで十分商売できるだろうに」との周囲の冷ややかな目をよそに、さっそく中古ピアノを買い取り、再生し、販売する体制を整えていった。
だが事業は思うように伸びていかない。「当時国内では他人の使ったお古を使うことへの抵抗が強かった」。
それならと矛先を海外に向けた。英語の辞書とにらめっこしながら、JETROで入手した電話帳をもとに現地のピアノ店に片っ端からFAXを流した。
オーストラリアの楽器店から注文が入り、これを皮切りに海外市場を一気に攻めていった。
いかに買い取り数を増やすかが事業の生命線となった。
そこでCM放映に打って出る。竹本氏がファンだったという俳優の財津一郎氏に出演を依頼。セリフは広報担当の北川勝利氏が「もっと、もーっと、タケモット」の言葉を編み出した。
「とにかく社名を覚えてもらおうとひねり出しました」(北川氏)。出来映えを見た竹本氏は「なに、これ」と絶句したが、フタを開けてみれば予想外の反響を呼んだ。
次に真面目バージョンの新CMを打ったところ、知り合いから「なに勝手なことしてくれてんねん」と、“もっとバージョン”の存続を求める声が相次いだ。
さらにこの音楽を聞かせると赤ちゃんが泣き止むとお母さんの間で評判になり、テレビ番組の「探偵!ナイトスクープ」でそれが実証された。
レコード会社からCD化の話が持ち込まれ、これまでに累計約5万枚を売り上げている。
認知度の向上に比例するように買取台数も増えていった。
一時は海外での買い取り事業に着手したこともあったが「売ってしまえば終わり」というドライさを感じ、やめた。
「大事に使われたピアノに魂を入れ直してまた大切に使ってほしいという思いを理解してもらいながら引き取り、思い出の詰まったピアノを役立てるのが私たちの仕事」と竹本氏。
その思いを大切にこれからも世界の子どもたちにピアノをつないでいく。
(取材・文/山口裕史)