ものづくり

紙の魅力を知るきっかけに、放置竹林から生まれた「かぐや姫紙」

2023.12.03

「ペーパーレス化の時代だからこそ、デジタル化との共存をめざし、紙の良さを引き出すことが僕たちの使命」。創業86年を迎える老舗印刷所の代表、大西氏の言葉だ。紙文化への深い愛情を感じるこの言葉の源泉は、その生い立ちにある。先々代から続く印刷所で代表を務めていた父の姿を見て育つが、社会に出て就職したのは製紙会社だった。当時は「紙は文化のバロメーター」と言われた時代で、製紙業界に魅力を感じたという。

物流や生産計画に携わって6年目に父から「アメリカの印刷業界への視察旅行」を勧められ、有給を取って渡米。デジタル化を牽引していたアメリカの最新の印刷技術を目の当たりにし、これからの印刷業界は面白くなると直感したという。

株式会社大同印刷所 大西 祐一郎氏

3代目として同社を引き継いだのは2003年。すでにデジタル化が進み、家庭やコンビニにプリンタが普及し始め、カラー印刷が手軽にできる時代が来ていたが、「ペーパーレス化の中でも、紙ならではの質感や存在感を引き出すのが私たちのミッション」との想いを強くした。

同社が得意とする特殊な印刷技術を活用すれば、紙漉きから特殊印刷・加工までをワンストップで行うことができ、細かな要望にも応えられる。ここが大きな強みになると考えた。こだわったのは、未利用資源100%での製品づくり。製紙会社に勤めていたこともあり、ライフワークは、さまざまな素材を使った紙づくりだった。和紙の産地に赴き、手漉き紙の体験教室で学んだり、古書などを収集して伝統の製法を調べたりしながら、さまざまな紙づくりに役立てた。イチョウの葉、枝豆、子ども服の繊維、牛や羊の糞……。さまざまな原料を使った紙を実際につくってみた。

オーストラリアから取り寄せたという、繊維を砕くビーター

そんな時、武庫川女子大学での実践授業をきっかけに、放置竹林の有効活用に取り組む「あわじ里山プロジェクト」との出会いがあった。話を聞く中で、社会問題でもある放置竹林の資源化に役立ちたいという思いを強くし、地域×大学×企業のチャレンジが始まった。学生たちと竹林の整備、紙漉きのワークショップ、竹を活用したBBQなど地域の方々との活動を行うなかで、「あわじ里山プロジェクト」が取り組む純国産メンマ「あわじ島ちく」づくりで生じる可食部以外の幼竹に着目。こうして「かぐや姫紙」が誕生した。

学生たちとの竹林の整備

今の課題は、「かぐや姫紙」の用途の拡大。印刷や書く(墨を除く)という用途以外にも、例えば、建材に吹き付けたり、造形物にしたりと、さまざまなことを模索中だ。

「かぐや姫紙の用途が拡がれば、放置竹林の資源化のサイクルが回り出す。増産のために機材への投資も考えたい」と意気込む。未利用農産物や廃棄物を何かにできないかという問い合わせも増加しているという。今もワークショップやSNSなどで紙づくりの魅力を発信し続けている同氏の将来の夢は、「昭和初期まではあった、地産地消の大阪産の手漉き紙“なにわ紙”を復活させて、大阪を元気にしたい」。

同社が開発した「かぐや姫紙」

(取材・文/工藤拓路)

株式会社大同印刷所

代表取締役社長

大西 祐一郎氏

https://www.did.co.jp

事業内容/印刷物の企画、デザイン、編集、印刷、出版等