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障がい者手帳をスマホで!株式会社ミライロが切り開くバリアフリー新時代の幕開け

2024.02.09

生まれつき骨形成不全症という難病により幼少期から車いすでの生活を送ってきた垣内氏。2009年、大学生のときに現在の株式会社ミライロの前身であるValue Added Networkを創業して以来、国内で暮らす965万人の障がい者がより安心して日常生活を送れる社会をつくろうと、バリアフリーマップの制作、障がい者や高齢者と接するためのマナー研修などの事業を展開してきた。買い物へ、食事へ、旅行へと出かけるハードルを下げることに貢献してきたが、もう一歩前へと踏み出すために足かせになっているものがあった。障がい者手帳だ。

障がい者手帳は、割引や何かサービスを受けるときに提示する身分証明書だが、各自治体が発行するため規格がばらばらであるのが現状だ。「規格が統一されていないため、事業者側にとっては提示された手帳によって本人確認をするのに手間取り、利用者にとっては、手帳を携帯し忘れることもしばしば。何より提示することに負い目を感じる人もいます」。そこで、垣内氏は障がい者手帳をスマホのアプリとして手軽に提示できるよう2018年7月に開発に着手した。事業者にとっては確認に要する手間、時間が減り、利用者にとっては忘れることもなく、心理的負担も解消できる、と考えたのだ。

ユニバーサルマナー検定の高齢者実技の様子

だが一筋縄ではいかない。利用に当たっては手帳そのものの提示が慣習となっていた。関係省庁と意見交換を重ねていたところ、2019年1月、国土交通省から交通事業者向けに通知が出され、突破口が開けた。ただ、同年7月に「ミライロID」をリリースした段階では導入事業者は6社にとどまっていた。「小さなベンチャー企業が作ったものを全国一様に普及させるには信頼や実績が圧倒的に足りない現実がありました」と振り返る。

そこで、信頼性の向上を模索していたところ、2020年6月に「ミライロID」が政府の進めるマイナポータルとのAPI連携の民間活用第一号に採択されることになる。「弊社から持ちかけたわけではなく、マイナンバーカードの利用促進を考えた政府の方からご相談いただき、実現しました。これにより、一民間のアプリから国のインフラという見え方に変わりました」。マイナポータルとの連携が実現してからは、JRをはじめとする鉄道各社や飲食店、レジャー施設などの事業者の参画が進み、障がい者団体への認知にもつながった。現在では3,800超の事業者での導入に至っている。「免許証も保険証もいまだ電子化されていない中で、障がい者手帳の電子化が実現した。まさに官民一体で実現できたと考えています。国家規模で障がい者手帳を電子化した事例は世界的にもなく非常に誇らしく思います」とその意義を語る。

「ミライロID」は、障がい者手帳としての役割を果たすこと以外に、障がい者の外出や消費を促すさまざまな機能が加えられていることも特長だ。コンビニエンスストアや外食チェーン、アパレル、アイウェア、スポーツメーカーが割引などのクーポンサービスを提供している。タクシーの配車サービスとも連携しており、垣内氏もよく利用しているという。「自身が車いすを利用していることを登録しており、ドライバーの方にもそのことがあらかじめ伝わっているので、スムーズに乗車することができます」。このほかにもJリーグチームや動物園、水族館などの障がい者割引チケットをオンライン販売しており、スムーズな入場につながっている事例もあるという。

スマホのアプリとして手軽に提示することができる。

「事業者にとっては、障がい者の社会参加を促すという意味で社会貢献にもなっていますし、自社のマーケティングにも活用できるというメリットを感じていただいています。近年は障がい者の法定雇用率を満たすことが難しくなりつつあるのが現状で、障がい者への採用情報を出したい、アプローチしたいという事業者からも関心が高まっています」。APIでデータを取得したい、広告を載せたい、クーポンを掲載したいという事業者から費用をいただくことで持続できるビジネスモデルを構築している。

こんな機能があれば、こう改善してほしい、という利用者の声を反映しながらサービスの追加、拡充を行っており、例えば駐車場の割引については二次元バーコードの提示もしくは読み取りで本人確認ができるよう改善を図ることで、空港など自治体が所有する施設を中心に導入が進んでいるという。

代表取締役社長 垣内 俊哉氏

「実は大阪は国内で最もバリアフリーに関する取り組みが進んでいる地域なんですよ」と垣内氏。例えば、点字ブロックは1970年の大阪万博をきっかけに世界に普及した。また、大阪メトロ谷町線喜連瓜破駅でエレベーターが設置されて以降、大阪市営地下鉄(現、OsakaMetro)は全国の地下鉄でもいち早くエレベーター設置率100%を達成したという。「そんなバリアフリーをけん引してきた大阪のポテンシャルを活かし、大阪・関西万博では『ミライロID』を世界に広げるきっかけにしたい」と述べ、世界に暮らす障がい者18.5億人のためにも「ミライロID」で障がい者のDXを進めていく考えだ。

ただあくまでも「ミライロID」は障がい者の外出促進のきっかけをつくる手段にすぎないとも。「外出しやすくはなっているものの、外出したいと思えるまではまだハードルがある」と述べ、そのためには障がい者に対して誰もが向き合い、気軽に声をかけられる社会に変えていかないといけないと指摘する。「日本では障がい者の就学率、就労率はまだ低いのが現状。これをもっと増やすことができれば、日本の取り組みは世界のお手本になるでしょう」。自身のバリアをバリューに変えてきた垣内氏の挑戦はまだまだ続く。

(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)

株式会社ミライロ

代表取締役社長

垣内 俊哉氏

https://www.mirairo.co.jp

事業内容/デジタル障がい者手帳「ミライロID」の運営、障がい者・ 高齢者へのサポート方法を伝える教育研修の実施など