新型コロナウイルスを簡便、迅速、安価に検査
新型コロナウイルスの感染拡大、さらには陽性者の重症化を防ぐには、陽性者をできるだけ早く特定し、治療に導くことが欠かせない。
現在行われているPCR検査は、ウイルスを検知する感度こそ高いものの、ウイルスを増やすための専門人材が必要であるためコストも数万円と高く、また判定に時間がかかるなど問題点も多い。
例えば空港での15分程度で済む検査など、検査の選択肢の一つとして専門知識不要で「簡便」で「安価」、そして検査後数分で判定結果が出るという「早い」判定が可能な新たな検査方法の確立が待ち望まれている。
大阪大学発のベンチャー企業、ビズジーンが開発に取り組む新たな検査方法はまさにその3拍子が揃っている。検査方法は鼻の奥からとった粘液を試液につけるだけで、数分で陽性者を判定できる。費用も数千円に抑える予定だ。
同社は家畜や人に特有の遺伝子情報を見つけ出し、それを標識物質などで可視化することで治療、予防、感染防止などにつなげる事業を展開。アルコール耐性をチェックできる遺伝子検査キットも開発済みだ。
昨年来、デング熱ウイルスを判別する簡便な検査方法を開発し、タイ政府と連携しながら人における効果を確かめる治験を行っていたところへ、今般の新型コロナウイルスの感染拡大に直面した。
「デング熱でアプローチしたのと同じ手法で簡便な検査方法を開発できる」と考え、2月末に開発に着手。だが、大学を通じて国に申請していた補助金が確保できるか見通しが立たなかった。そこでチャレンジしたのがクラウドファンディングだ。募集当日に目標の300万円が集まり、合計で2,500万円に達した。実際に補助金が下りたのは7月下旬で「初期の開発を一気に進めることができた」とその恩恵を強調する。
ウイルスを可視化する仕組みは、まずコロナウイルスに固有に見られる遺伝子の塩基配列を複数特定したうえで、その並びに対応した塩基を人工的に作り出す。
その中からよりくっつきやすい組み合わせを選び、さらに複数の物質を混ぜ合わせた試薬を作り、特定遺伝子配列のみを強固に捕まえる。
医師立会いの下、鼻の奥で採取するための検査方法と、唾液で判別する2種類の方法を開発。前者については年明けの治験の結果を待って薬事申請をし、すでに発熱などの症状がみられる人の中から陽性者を迅速に特定し、早急な治療に導くニーズに応える。
また後者はすでに研究開発用として販売を始めており、陽性者がいるかどうかを確認したい事業者、一般向けへの販売も考えている。
「経験値を増やし、次に新たなウイルスが現れたときにもすぐに開発できるようにしたい」と開發氏は次なるウイルスとの闘いも見据えている。
(取材・文/山口裕史)