課題を結び付けて生まれた会員制屋内駐輪場サービス
自宅から大阪の都心にあるオフィスまで自転車で通う人は多い。だが、駐輪場の数は限られており、必ずしもとめられる保証はない。もしとめられたとしても「盗難されるのではないか」「雨ざらしにしたくない」といった思いを持つ人も多い。とくにスポーツタイプの自転車を持つ人にとって自分の自転車は宝物のような存在だ。そんな不安や希望に応えるのがスポーツ自転車専用の会員制屋内駐輪場「ヴェロスタ」だ。
大崎氏自身、スポーツタイプ自転車で本町にあるオフィスまで通っていた頃に、上記のような思いを持つ知人から「どこにとめているの」と聞かれることが多かった。漠然と駐輪場の必要性を感じていたところへ、大阪都心部のオフィスビルの空室率が上がっているという調査結果を見る機会があった。この二つを結び付け、さらにスポーツタイプの自転車向けに特化すれば可能性が高まると考え、事業化。オフィスビル中層階の一室を約30台分とめられる駐輪場に改装し、Web予約システムを導入することで月額利用料を6千円に抑えた。
事業化に当たってのハードルの一つは、「エレベーターや壁など共用部分が傷つくのではないか」というビルオーナーの不安だったが、「スポーツタイプの自転車を持つ人は自分の自転車を傷つけたくないものです」と説明することで納得が得られた。利用者にとって出入口の扉をいちいち開閉錠するのは面倒のように思えるが、セキュリティ面での安心を確保できることを思えばわずかな手間だ。利用者ごとに固定の駐輪スペースが割り当てられるため、そこはそれぞれのマイスペースと化している。通勤時の着替え用にスーツと靴を常備している利用者もいるという。また、24時間いつでも出入りできるようにしているため、お酒を飲んだ日や雨が降り出した日はとめて帰る、といった使い方もされ、潜在ニーズの掘り起こしにもつながっている。
「自転車通勤を増やすことは、健康増進、ラッシュの解消など、さまざまな社会課題の解決につながる」と大崎氏。他にもコワーキングスペース、防音のひとり用会議室などサブスクサービスに特化した事業を展開する同社。サービスの根底に常に置いているのが「それぞれの事業者が自分の得意分野で社会課題の解決につながるアイデアを実践すれば、総体で社会課題の解決が大きく前進する」という思いだ。その視点で今も次の事業アイデアを温めている。
(取材・文/山口裕史)