クラフトビール市場に製造代行で斬り込む
「クラフトビールの醸造所を始めたい」と思って場所探しをしていた志方氏は、廃業した大阪・淡路の銭湯を紹介され、ひと目でほれこんだ。
理由はただ一つ「おもろそう」。
発酵などに使うタンク類から注入機まで機器類はすべて男湯の浴室に納め、脱衣場は事務所にしつらえた。
「銭湯は大容量の水を扱うので基礎がしっかりしていてたくさんのタンクを置ける。しかも太い排水管があって改造せずに使うことができた。銭湯って実はビール醸造所に適しているんです」。
週末はビールを牛乳瓶に入れて提供し、女湯の浴室・脱衣場がビアバーに早変わり。赤ちゃんの着替え台やコイン式頭髪乾燥機もあえてそのまま残した。
脱衣場でのんびりする人、空の浴槽に座ってしみじみ飲む人…。「皆さん長居しすぎて、回転率が悪いのが難ですね」と笑う。
以前に飲食店を営んでいた時「ワインや日本酒は食べ物に合わせて選択肢がたくさんあるのにビールはほぼ4大メーカーしか選べないことに疑問を感じていた」という。
京都の地ビールメーカーで1年修業し、満を持して独立。ただ、最低でも年間6万ℓ分の生産量を売り切る販売先を確保できないとビール醸造免許は下りない。
志方氏と同様の想いを抱く飲食店経営者仲間に声をかけ「OEMのビールを店で売る」という覚書を集めた。
すでに地ビールメーカーが多くひしめく中で志方氏はよそにない独自のビジネスモデルを打ち出した。
それは「自社ブランドのビールで勝負するのではなく製造代行に徹すること」。店が必要とする多様なビールのニーズに応えたいという思いからだ。
7月の製造開始から、大麦やホップの配合やその入れ方、さらにはフルーツ、ハーブ、スパイスなどさまざまな材料を加えて、そのできばえを確認。
レシピはすでに20種類を超えており「まずはこの2年はレシピをどんどん増やしていきたい」という。
これまでに多くの飲食店向けに店ブランドのビールを提供しているほか、百貨店のオープン記念、企業の周年記念用ビールにも採用された。
「まだまだ実績もない僕のところへ依頼してもらえる。逆に言うとそれだけニーズがあるということ」と志方氏。
ビール市場におけるクラフトビールのシェアはまだ1%程度。
「今後は個人のニーズにも応えられるよう10ℓタンクも導入したい」と、伸びる余地の大きいクラフトビール市場に製造代行でさらに斬り込んでいこうとしている。
(取材・文/山口裕史 写真/Makibi)