≪講演録≫無印良品流 人の育て方と仕組みづくり
最後に「経営姿勢」について
人に聞いたこと、自分がやってきたこと、様々な改革の過程の中でいろいろ気づいたことを書き留めてきました。今31ぐらいありますが、この31の「経営姿勢」については一つ一つに思い入れがあります。このうちいくつかピックアップしてお話ししたいと思います。
14.「右か左の岐路に立ったときは難しい方を選択する。困難な選択肢の方に心理が隠されていることが多い」
私が社長になった時、アウトレットのお店が7つありました。アウトレットは衣料品の売れ残った商品を処分する場です。例えば衣料品の在庫が原価で10億残っていたとすると、それまでは全部捨てていました。捨てることができると、一番健全な状態を簡単に続けることができます。
一方で人件費と家賃をかけたアウトレットで10億円分あった在庫の売上が3億ありました。アウトレットがあれば捨てるのは何億かで済むことを発見しました。そうして最盛期20店舗にまで増えたアウトレットですが、毎年1店舗ずつ閉鎖をしていきました。それはなぜでしょうか?
春物は沖縄から、秋物は北海道からといいますが、私どもにはもっと店舗がありますので、春物秋物はフィリピンやタイ、秋物・冬物は欧米韓国、2カ月くらいの気候の差に応じて動向をつかみ適切に商品をデリバリーしていきます。
売れない商品は世界中どこに行っても全部売れ残り、売れる商品は、例えば佐賀の店にあった物を新宿の直営店に持っていけば瞬時になくなります。
物流費は1枚当たり30円とか40円と言われているので、そうやって商品を移動させた方がいいのです。
私どもの商品の販売動向は3週間でわかります。3週間目にはグラフ化していて全員が見られるようになっていますので、ここでアクセルを踏むかブレーキを踏むかそのまま行くかを決めます。アクセルを踏むと決めた時、中国で50%、アセアンで50%作っているので日本から電話、FAXでコントロールできません。
EDI(Electronic Data Interchange)で結んでおかなければいけないし、尚且つ付属のボタンやファスナーを置いておかなければいけないのですが、アクセルもブレーキもある程度は自由に決められるようになっています。
ネットでは冬に半袖、夏に長袖を売ったりして、売ると言うより動向をつかむようにもしています。季節は違ってもファッション性の高い人たちはこれをスパッと買ってくれるのです。
世界の気候差はだいたい2カ月。秋物は8/1に欧米、半月後中国・韓国、9/1に日本、中東、10/1にフィリピン、タイに入ります。私どもは世界中で作り、26か国で販売していますので、作っているところと気候差に応じて商品をデリバリーする仕組みを作り上げないと、在庫のコントロールはむずかしい。アウトレットのような仕組みがなければ厳しいのです。
しかし最後はアウトレットで売ればいいと考えると甘えを生じるので、少しずつアウトレットを減らしてきて、昨年はとうとうアウトレットをゼロにしました。そこまで追い込んでおかないと、会社の仕組みは血が流れるように変わって行ってはくれません。このような理由から私どもは現在アウトレットゼロでやっています。
16.「部分最適の累積は全体最適にならない」
全体最適というのは分かりにくいものです。私も社内で話をするときは相当苦労をします。私は91年に無印に来た時、人事で転籍の準備が仕事でした。人事制度は西友からそのまま30段階の給与体系を持って来て、8段階くらいからスタートしたのですぐにできました。転籍の時、基本的に給与は下げるわけにはいきません。移行原資というのがあって、いいところに合わせます。
給与を上げると組合も本人も納得するので移行は簡単ですが、そのためには相当の経費がかかります。無印最初の年の1億円という経常利益はお取引先からの寄付みたいなもので、現実には1億という利益を得るのは難しいことは分かっていましたので、ここは上手にやらないといけませんでした。
移行原資は、ほぼゼロで行きました。当時給与は上がっていましたので、上がった分は3年5年で取り返す、というふうにしないと難しかったです。
私どもの本社の隣にファミリーマートさんの本社がありました。最初の社長はのちの当社の会長でした。8階建ての新しいビルを借りていて、最初8階のフロアは全部空いていました。将来に供えて会議室と倉庫にしていたのですが、1年後行ってみるとそのフロアは全部オフィスになっていました。私どもでも人事はいろんな部署から人の要請を受けます。
黙っていると、物流センターが出来たり、お店の数が増えたりしているからと言う理由で、半年に50人くらい増員したいと言ってくるのです。部分から見たら必要なのかもしれませんが、会社の経営全体から見るとそんなに人を増やす必要はないのです。
社長の「まだいいんじゃないの?」この一言が結構大事なのです。トップは常に全体最適でものを見ます。部分最適から上がってきた要請は基本的に全体最適から見るとどうもおかしいことが多いのです。
18.謙虚、臆病、危機感
問題は必ずいい時に起こります。順調だと誰もが安心します。安心をすると競争に負けます。うまくいくと油断をします。油断するとかなり深い傷を負ってしまうことがあります。そして慢心をしてしまうと経営危機に瀕します・・・。無印の場合も、ほとんど毎年前年比3割4割と売り上げも利益も伸びてきました。当時4900億だった時価総額は今は7000億になり、株価は2万6000円くらいで回っています。
こういう順調な時に一番危機を感じる能力がものすごく大事なのです。復活の過程の中での順調は特に安心します。社長が安心すると、下の人たちはもっと安心するのです。いろんな経営者にこのような大企業病を防ぐ方法はないかと尋ねると、みんな口を揃えてないといいます。その時々でいち早く問題を発見して、手を打ち続けるしか方法はありません。
19.勝って兜の緒は締まらない
ことわざですと「勝って兜の緒をしめよ」ということになります。経営をしていると、こんなことは不可能だと私は思うのです。できないからことわざになっているのだと。従って、勝って兜の緒は締まりません。締まらないと分かると、手の打ちようがあります。何事もうまく行ったら、その後は悪くならないように、常に緊張感を持ち、改善をし続ける仕組みを組織にインプットしておくのです。
勝って兜の緒は締まらなければとトップが警鐘を鳴らします。しかし警鐘が鳴らなくても、現場の社員とお客様の声が会社の仕組みを変えるようになっているというのが大事なのです。
ご清聴ありがとうございました。
≪参考≫31の経営姿勢
- 経営に“まぐれ”はない
-経営に“タラ” “レバ”はない
-経営は“意図”と“過程”と“結果” - 即断、即決
- 社長は情報発信体
- 個性の発揮
- 煩悩を断つ
- 自分の頭で考える
- 当事者意識が「成果」を生む
- 会社は社長の人格以上にならない
- 社長に逃げ道はない
切り開いて前に進むしか方法はない - 企業は“進化”しないと生き続けられない
“進化させる”のが社長の役割 - 敗けて、勝つ。プライドは何の役にも立たない
- 経営は人間に対する洞察。経営はコミュニケーション
- 変革を成し遂げられる人がリーダー
- 右か左の岐路に立ったときは難しい方を選択する
困難な選択肢の方に真理が隠されていることが多い - 計画は5% 実行が95% やり切ることが最も大事
- 部分最適の累積は全体最適にはならない
- “見て、測れて、手が打てる”
- 謙虚、臆病、危機感
- 勝って兜の緒は締まらない
- 急拡大にメリットなし
- 莫煩悩
- チンピラ
- 振り子は大きく振る
- 人はいつも不足気味にしておく
- 多数決では決めない(会社に議論は似合わない)
- 継続と変化。基準は「会社にとって正しいこと」
- 他社に学ぶ
- デッドラインが生産性を上げる
- 社風は“現場”がつくる
- 自前化が改革を進める
- 人生に無駄な経験は1つもない