≪講演録≫無印良品流 人の育て方と仕組みづくり
「失敗しない出店」の仕組みー評価基準により点数化
では、販売の仕組みはどう変えるか?
この頃の一番の悩みは10店舗の内、計画を達成するは2店舗だけという達成率の低さでした。あとの8店舗は失敗をするのです。西友時代はもう少しひどくて、10店舗の内、計画達成は1店舗、後の9店舗は失敗をしました。大型店が失敗すると大変なので、「不振店対策」というのをします。
物流も、システムも、宣伝も、商品部も販売部も全部その店に集まって立て直そうと会議をするわけです。しかし、この不振店対策が成功することは一度もありませんでした。出店という戦略で失敗しているのです。戦術面で小手先のことをやっても立て直す方法はないのです。
「失敗をしない出店をしなければならない」
出店をする際、仲介業者、デベロッパーと私どもテナントとでだいたいの条件を出し合い、それぞれの言い分の半分で決め、仲介業者は手数料を取ります。駅前の一等地を見たら、開発担当者はどうしても出店したくなります。例えば、年間の売上が5億くらいの店だなぁと思うと、駅前の一等地なので計画表には6億と書いて出すのです。
そうすると取締役たちは実態を把握しないまま稟議が通ってしまいます。でも蓋を開けるとやっぱり5億しか売れない。開発担当者が物件に惚れ込んでしまい、あばたもえくぼに見えるのです。したがって出店はいつも失敗をします。全取締役が印鑑を押しているので、失敗しても誰も責任を取らない。これが企業体質で、今までの出店のやり方です。
この頃社外取締役としてコニカミノルタの会長に来てもらっていました。ライバルのキャノンさんでは、新しい商品を出すと計画の上下3%しかずれないといいます。103~97です。2,3年すると価格が半分になってしまう世界でこの成功率を誇ります。
今はキャノンさんから社外取締役に来ていただいているのですが、今も全く同じで、計画比120%になると計画性が悪いということになり、賞与が下がるそうです。上下3%しかずれない会社と8割失敗する会社。差があり過ぎます。こういう常識で出店政策を考えてもダメ。これを変えていきました。
全国を174のエリアに分けて、このエリアの中で無印の売上比率の低いところに計画的に出店場所を決め、そして25ある物件評価項目を点数化します。その項目の中には日本全国の平均が100になる所得指数というのがあります。沖縄が60、東京23区で170~180くらいになるのですが、この所得指数と無印の出店成功率の相関性が相当高いことがわかりました。この指標を入れた点数で、出店するしない、出店の具体的な条件も決めていきます。
そして都市型で5億円の店を出店する場合、投資は5000万円で作り、FCは3年3か月、直営はメーカー利益もあるので1年で回収します。それまでは開発担当者の力量で勝負をしてきましたが、人間が判断すると間違いばかり。このように指数で判断する方法に変えることで、2004年から出店の成果が変わりました。出店は9割成功したのです。それでも1割は失敗したのですが・・・。
海外でも同様に出店基準値を作っていきました。例えば、中国ではこの他にあと3つ条件が加わって、28項目の出店基準値があります。
- 日本と違って中国のお金持は外国人と若い人しかいない。若い人と外国人がどの程度マーケットにいるか?
- カラオケがあるかどうか?
- 有名テナントが入っているかどうか?H&M、ZARA、ユニクロ、MUJI、ワトソンという台湾のドラッグ…この5社が入っているとそのショッピングセンターはほぼ確実に勝ち組になると言われています。
この3つの項目で、点数配分は北京大学と一緒に作ります。中国のことなので中国と一緒にやるしかありません。中国に30店舗出して、計画を下回ったのは2店舗だけ。28店舗は計画を達成しました。日本より中国の方が、出店精度が高かったわけです。
30%委員会―コスト構造を変える
2004年から右肩上がり。3割の増益。その時の労働組合の委員長が「こんなに業績がいいのになぜ福利厚生費を削るのか?」といってきました。人件費総額は変わらないのですが、労働組合からすると増えた分は分からないが減った分は明確にわかるので、福利厚生費をどうして削るのか?と。明らかに脇が甘くなっている時でしたから、仕組みで業務構造を変えていかなければなりませんでした。
まず34%ある販管費を30%まで落とそうという目標を立てました。現実には30.5%まで落ちました。私どもの会社ではこの4%は64億円に匹敵します。構造を変えることにより、64億円のコストを1年で削ることができるわけです。
全役員が毎週火曜日に会議を始めました。ですが、実は2005年の販管費は増えてしまいました。直営店比率が高くなると売り上げも増えるのですが経費も増えます。純粋培養の社員が会議室で議論しても知恵がでません。大手の銀行の優秀な執行役員も同じで、30分か40分すれば議論が止まってしまいます。あうんの呼吸でみんな言うことかがわかってしまうのです。同質の人間が何人集まっても知恵はでないということです。
役員10人いれば2人くらいは頑張ってやってくれます。でも8人は計画達成しません。この8人分を会社としてどう解決するか?が一番大事なわけです。それは中小企業やオーナー企業にヒントがありました。どうやって売り上げを上げて、どうやって構造を変えて、どうやって人を育てるか・・・生きるのが必死なのでとんでもない知恵が出てきたりします。そしてこの知恵が強烈なわけです。
構造を変えるヒントは自社にはなく、他社にしかない
改善の例として、タグシール(値札)の自前化があります。しまむらさんというアパレルの会社の専務が来てくれた時のことです。値札は何種類あるのか?と聞くとたった3種類しかない。5000億売っている会社がたった3種類のタグでビジネスをしているのです。さすが小売のトヨタです。当時私どもでは203種類のタグを使っていました。
社員に聞くと思った通りの返答で、「しまむらさんは衣料品だけだが、我々は鉛筆からベッドまで売っているので、203種類あっても仕様がない」でした。そのままでは改革は進まないので、壁に貼って要る要らないを検討していきました。
そうすると、すぐに97種類まで減りました。半分以下です。タグ制作に関しての取引先は27社。日本で大きな印刷会社に発注してDHLで海外の工場に飛ばすと2,3日かかります。ちょうど5億かかっていたタグの経費は、タグの種類を減らすことで、2億5000万円ですみました。このように構造を変えるヒントは自社にはほとんどありません。他社にしかないのです。
しまむらさんを勉強しに行こうと、西友時代観光バス6台を連ねて行ったことがありました。物流センターやお店を見せてもらって本社で説明を聞きました。ですが、帰って来てどうだったかと聞くと、勉強になったというだけで、そこからの行動は一切ありません。それでしまむらの社長に社外取締役に就任してもらうことにしました。
お互いに飲むのが大好きな会社なので役員同士の飲み会があります。物流システムの取締役と課長が一緒に飲む機会もあります。ある日課長が、しまむらの倉庫の在庫のオペレーションはどうなっているのか?と、ふと思ったとします。その時すぐに電話をかけて聞くことができます。場合によっては電話で聞いて、すぐ現場を見に行くこともできます。
実務担当者レベルで何かあった時、気が付いた時、ひらめいた時、電話をして現場を見に行けるという関係にまでもっていかなければ、他社に学ぶと言うことはできないのです。経営者は問題が起こった時にすぐに解決策を探し当てることができなければなりません。学者の世界と違って学術論文が世に出ているというわけではないのです。
解決策を探し当てるのは企業の経営者の責任であり、これができる会社とできない会社では業績が大きく変わります。
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