産創館トピックス/講演録

≪講演録≫無印良品流 人の育て方と仕組みづくり

2016.03.02

業務の標準化-「MUJI GRAM」による店舗運営

MUJI GRAMは現在13冊、2000ページある、お店のオペレーションシステム(マニュアル)です。なぜこんなシステムを考え出したかといいますと・・・。1年目2年目3年目いろんな店長につきます。そして、優秀だ、相性がよかったという店長のやり方を見て育ちます。

100人店長がいたら100通りの売り場の作り方がありますので、例えば新店の店長と応援に行った店長のやり方が違うと、なかなか売り場が完成しなかったりもします。これは直さないといけません。店長が100人いたら2人位は完璧な売場を作る、職人芸の人がいます。

しかし残りの98人は60~70点の売り場しか作れません。お客様のためには90点のお店が100店ある方がはるかに大事なのです。それには業務を統一しなくてはなりませんので、マニュアルが必要になるわけです。最初、ハワイのスーパーマーケットチェーンにサングラムというマニュアルを見に行きました。

私どもはMUJI GRAMという自分の会社の仕事のやり方を作るわけですので、このサングラムが役に立たないことにすぐ気が付きます。

従ってゼロから作り出していきました。最初は人事、システムなどを主管部門で作りましたが、使いにくいと言うことがわかります。業務の改善は現場でしかできません。店長と相談して今までやってきた仕事の仕方よりこっちの方いいということを、イントラネットを使って現場で入力をします。

そして課長はPCで確認、内容がよければ承認します。このようにして全社のしくみが変わります。MUJI GRAMは毎日変わるマニュアルなのです。

例えば、店長が取得すべき資格は9つあります。以前は店長になってからその資格を取得していったのですが、店長の仕事は忙しいので、店長になる前に取るようにすると、ひとつ上のランクの仕事をすることになります。そういう内容もMUJI GRAMに載っているため、毎日20ページ(1%)くらい変わります。その内容を、店長会議を通じて現場で徹底していきます。

これまでのマニュアルは出来た時が最終形でした。半年くらい経つと仕事内容が変わりますが、マニュアルは変わりません。これがマニュアルの使われない一番の理由でした。MUJI GRAMでは、100%新しい仕事の仕方が実行されていきます。ですから、MUJI GRAMに載せるとPDCA(Plan Do Check Action)というマネジメントスタイルがほぼ100%確立することになります。

PとD、特にPばっかりの会社で育ってきた私どもが経験至上主義による暗黙知を、見える化・標準化したのです。これがあればこれまでのように店長のセンスによって店舗が変わることもありませんし、人が代わってもノウハウが失われてしまうことはありません。

中国では今中国語で1200ページくらいあります。同じ中国語でも台湾と大陸は文化も仕事の仕方も違いますので、それぞれの国で作って利用しています。その国の仕組みにしてないといけないからです。中国は30数店舗の新店に毎年1000人の社員が入ってきますので、マンツーマンで教えていると間に合わないのですが、この仕組みでやると、ほぼ同じレベルでちゃんとできます。こうしないと、オペレーションが統一できないのです。

そして、「風土」を変える―最初は挨拶から

挨拶はコミュニケーションの基本です。キャノン電子の工場見学に行ったところ毎朝、幹部が入口に立って挨拶をしていました。派遣社員は日本語ができない人ばかりでした。この工場では一人で全行程をつくるという生産方式でしたから、コミュニケーションができないと、少しおかしいなと思っても作業を続けてしまうのです。

挨拶をするようになってコミュニケーションできるようになると、おかしいと思ったら班長を呼び、機械を止めて直すようになりました。そうすると半年間不良率がゼロになりました。挨拶をするようになるだけで、そんなレベルのところまで変わっていくのです。

私は西友の人事時代にもこういうことをたくさん経験しました。挨拶ができているかお店を見にいくと、ほとんどできていない。なぜできていないのか?店長がやっていないからです。上からやらないとダメだと思い、私も本社で挨拶を始めました。本社550人のうち挨拶しない人が2人いました。直属の上司が立っていたらちゃんと挨拶してくれるだろうと上司を立たせるようにもしました。

そうしていると、会長が立っていると嫌だと言う人もでてきて、挨拶をするのを月1回にしたり、ボランティアで始めたり、いろいろやり続け、今は課長以上が全員立っています。何事も1回始めたら止めないというのが必要。止めてしまったら元に戻ってしまいます。挨拶のように当たり前のことを当たり前にできるように風土をつくっていかないとだめなのです。

ただ決まったことをずっと10年でも20年でもやり続けます。そうやって社風ができるのです。決して難しいことをやるのではありません。10年20年やり続けることに難しさがあるのです。たいていの企業は、決めたことを10年20年続けられないから、社風が脆弱なまま放置をされてしまいます。社風が脆弱なままだと、どんな政策も実行できないままになります。社風を作るのはどれほど大事かということがわかりました。

人の育て方―「人材委員会」で組織力の強化、適材適所を決める

私どもでは、人を育てる場合MUJI GRAMを使っています。また専門性を上げるための教育は「人材育成委員会」で、基本的な適材適所配置については「人材委員会」で行っています。

私は西友時代から人事で結構苦労しました。販売担当の常務がいて、この人は次期社長と言われていて、販売部の1万人の社員の面倒を見ないといけないから、教育の協力をしろと言われました。また、管理担当専務と商品部担当専務。それぞれの部門を勝ち抜いて来た人たちで、仲がよくありませんでした。

調整は社長しかできない。でも現実には社長は調整などしない。人の育て方も経験主義だったため、組織はぎくしゃくしていてうまく動きません。全体最適な人事など全くできていませんでした。

これは何とかしないといけない。リーダー、次期経営者を育てる仕組みがいる・・・。部長以上が40人、課長が100人。計140人が対象です。40人の部長以上の人をどうやって異動配置をさせるか?リーダーは素質(潜在能力)が半分と考えます。その潜在能力はほぼ変わらないという前提で、パフォーマンス(人事評価)とのマトリックスにし、これをファイブボックスと呼びます。そして40人をファイブボックスのどこかに当てはめていきます。

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例えば取締役販売部長の場合。大変な役職でありすぐできる人はめったにいません。該当するこのファイブボックスのⅠのところには約1割の人が入ります。Ⅰに1割入らないと組織としては厳しいです。そしてここにAという人が入るとします。このAという人が取締役システム部長の場合でも同じようにここに入ります。Aさんのようにスーパーマンみたいな人がいるわけです。

でも体は一つなので健全な状態ではありません。そして、優秀な部長で、目いっぱい仕事をしてパフォーマンスを上げている人がいます。でも取締役にはならない、という人がⅡに入ります。

それから、今度は課長だと思ってほしいのですが、将来はⅡではなくてⅠに行きそうな期待の星がⅢ。そして、これは6割くらいいる、普通に仕事をしてくれる大事な人がⅣ。

それから現状のパフォーマンスが低く、改善かローテーションが必要な人がVです。組織として大事なのはⅠとⅤ。Ⅴは上司との関係が一番大きく、そのせいでパフォーマンスが低いケースは異動させてやらないと仕方ありません。このような形で毎年、半年に1回全役員で後継者を決めて行くのです。

全体最適を考える

例えば販売部の場合、販売部の役員がエースを置いたまま、2番手3番手を出すと全体最適な人事にはなりません。ですから人材は各部署優秀な順番に出すことになっています。10年以上そうしています。そしてキーはクロス人事です。商品部が海外のことを知らない場合は、海外の部長と商品部の部長をチェンジします。反対の立場になるとようやくイメージがわくということがあるからです。

つまり販売一筋、食品一筋というようなことはなくなっていきます。全役員が入って決めているので、2か月後には完全に人事として発令されます。最適な人間が一番いいポジションで一生懸命やれる、そういう構造でやっています。それまで海外は言葉のできる人を配置していました。

しかし言葉ができるのと仕事ができるのは別。全く関係ありません。ドイツ、イタリアには日本人は一人。この一人が行って現地でビジネスができるかということがものすごく大事なのです。その人がどんなセクションにいても、一番優秀な人をドイツかイタリアか韓国に派遣をします。そういうことができる仕組みを作っています。

グローバル化―課長100人全員を海外に

あと2年半かからずに、4百数十店舗くらいで海外と国内の店舗数が並びます。日本のマーケットで一生懸命仕事ができる課長が海外でも正しい判断をして、どんなことにもヴィヴィッドに対応できるようになるには、グローバルな体質になりきらないとむずかしい。

そこで課長100人全員を海外に出すというプロジェクトを今進めています。20人は既に海外の経験があって、残り80人の内今60人出し終わっています。こうしないと、会社全体をグローバルに変えていくことはむずかしいのです。

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株式会社良品計画

名誉顧問

松井 忠三氏

http://ryohin-keikaku.jp/

「無印良品」を中心とした専門店事業の運営/商品企画/開発/製造/卸しおよび販売