商品開発/新事業

《講演録》フェムテック 流行のその先へ 未来を創る新産業

2022.02.15

《講演録》2021年11月22日(月) 開催
フェムテック 流行のその先へ 未来を創る新産業

〈講師〉
Amina氏(fermata株式会社 CEO 兼代表取締役)
澤井裕之氏(株式会社大丸松坂屋百貨店 大丸 大阪・梅田店 営業推進部マネジャー)
髙橋知世氏(株式会社大丸松坂屋百貨店 大丸 大阪・梅田店 婦人服・michi kake担当)
〈ファシリテーター〉
藤堂ちどり氏(株式会社AZ COO/マネージングディレクター)

「フェムテック」という言葉をご存じだろうか。フェムテックとは、女性特有の様々な課題を解決するためにテクノロジー(技術)を活用したツール・サービスをさす。今回のセミナー第1部では、女性のウェルネス課題を解決・支援する事業を行うfermata株式会社のAmina氏が、フェムテックの基礎知識や市場の未来について講演。第2部では、女性に寄り添う売場michi kakeの取り組みを、大丸梅田店の澤井氏と高橋氏が紹介。その後、ファシリテータとして株式会社AZの藤堂ちどり氏が加わりトークセッションが行われた。

 
【第一部】「タブー」を「ワクワク」に変える フェムテックの未来
〈講演〉fermata株式会社 Amina氏

 
◉フェムテックは女性の切実な需要から生まれた新たな市場

マレーシア出身の父と日本出身の母のもとに生まれてアフリカで育ち、ヨーロッパで教育を受けたAmina氏。東京大学修士課程修了後後はイギリスに戻り、医療経済の専門性を活かして公衆衛生の世界で働いた。「4年前に日本に帰ってきたとき、女性の健康関連のプロダクトが市場にあまりないことに気づき市場に出したいと思いましたが、そこにはとても高い壁がありました。でも、自分のバックグラウンドを活かしてそれを乗り越えようと思い、fermataを立ち上げました」。

Female(女性)とTechnology(テクノロジー)をかけ合わせたフェムテックは、2012年ころから起業家と投資家の間で使われはじめたという。「デンマーク人のIda Tin氏が、自身のバイクの旅を快適にしたいと月経管理アプリのアイデアを思いつき、投資家を説得するために思いついたのがフェムテックという言葉です」。

そして、「フェムテックは、生理・妊娠・更年期など女性特有の健康課題を解決するために開発されたテクノロジーを用いたプロダクトを指します。より広い概念として、吸水ショーツや月経カップ、デリケートゾーン関連のケアアイテムなど女性の健康課題解決に関わるより幅広いジャンルのプロダクトを指すこともあります。女性の心身にまつわるタブー(固定観念や価値観)を変えていこうというムーブメントも、フェムテックが担う重要な側面の一つです」と話した。

また、女性の働き方や生き方の多様化が進む一方で、女性のライフステージにおける課題は変わりなく、いまだタブー視される傾向にあると指摘するAmina氏。「世界男女格差指数において、日本は156カ国中120位というのが現実。男性の身体に合わせた社会構造のなかで生きる、女性のQOLを向上させるために誕生した市場がフェムテックです」。

 
◉最新テクノロジーを使用した世界のフェムテックアイテム

世界のスタートアップ企業に投資家が出資した金額の推移と企業数を示しながら、「フェムテック発祥時の2012年は60億円(約10社)でしたが、2020年には1300億円(約500社)と急増しています。しかし、これは欧米だけの数字で、グローバルでみると2021年の投資額は約5000〜6000億円で、800社くらいあると言われています」と説明するAmina氏。また経産省が、日本国内における経済効果は2025年までに2兆円という数字を出していること。2025年までにアメリカでは5兆円、グローバルでは2027年までに100〜120兆円という試算が出ていることを明かした。

世界のフェムテック企業のプロダクトは、「ゲノム」「ブロックチェーン」「IOT」「AI」という4つの最新テクノロジーを組み合わせたものが多いという。日本では未承認のものも多いが、例えば、摂取した経血やDNAを分析して、子宮内膜症など女性特有疾患の早期発見をするスマートタンポン、体外受精など不妊治療を行う際の検体を管理するシステム、出産の時期や早産・帝王切開の可能性が自宅で予測できる陣痛セルフモニタリングデバイス、ゲームをしながら骨盤底筋が鍛えられるデバイスなどが世界では開発されている。

「立ち上がってから10年ほどの産業なので、見えている需要は氷山の一角にすぎません。女性たちが心身の悩みについてもっと話せる環境や社会になれば、より課題が共有されて解決策を生み出す企業が増えると思います」。

 
◉fermataの4つのチャレンジは「啓蒙」「研究」「政策」「投資」

fermataは、4つのチャレンジ領域に取り組んでいる。それは、ユーザー自身が個人のニーズに気づくためのイベント開催や実店舗の全国展開 (啓蒙)。潜在ニーズの開拓や新商品開発に対する収集データの活用(研究)。そして、女性の健康視点における薬機法の整理や政策提言 (政策)、フェムテック企業に投資・融資する際の追加判断資料の提供(投資)である。

Amina氏は、フェムテック市場の成長にはフィジカルな場、つまり、実際にものが手にとれる場所が必要だと強調する。「フェムテックアイテムは、大きさ・カタチ・肌触りの想像ができないためオンライン購入にはまだハードルがある。そのため、私たちは日本全国でPOPUPを展開するほか、東京の六本木と、大阪心斎橋(パルコ)に実店舗を出しています」。

さらにシンガポールに支社をもつfermataでは、シンガポールの迅速な薬事承認システムを利用して、将来的に日本のフェムテックアイテムを東南アジアで販売する流通モデルをつくろうと動いている。

「2021年10月に、世界6地域・27カ国から157ものプロダクトやサービスを集め、フェムテックアイテムの展示・体験イベントを東京で開催しました。このようなイベントを関西でもぜひ開催したいと考えています」。

 

Amina氏(fermata株式会社 CEO 兼代表取締役)
東京大学修士号、London School of Hygiene & Tropical Medicine (英) 公衆衛生博士号取得。 福島第一原子力発電所事故による被災者の内外被曝及び 健康管理の研究を行い、東京電力福島原子力発電所事故 調査委員会(国会事故調)のメンバーでもある。日本医療政策機構にて、世界認知症審議会 ( World Dementia Council ) の日本誘致を担当。
厚生労働省のヤングプロフェショナルメンバーにも選ばれ、「グローバル・ヘルスの体制強化:G7伊勢志摩サミット・神戸保健大臣会合への提言書」の執筆に関わる。近年、Mistletoe 株式会社に参画。また、元 evernote CEO の Phil Libin 氏が率いる AI スタートアップスタジオ All Turtles の元メンバーでもある。国内外の医療・ヘルスケアスタートアップへの政策アドバイスやマーケット参入のサポートが専門。

fermata株式会社 
「あなたのタブーがワクワクに変わる日まで」をビジョンに掲げ、未だタブー視される傾向にある「女性のウェルネス」課題を解決・支援する事業を行っています。女性の体の悩みやモヤモヤを共有するプラットフォームの創出、ウェルネス課題の解決に繋がる世界中のプロダクトの提供を通して、日本、そして世界のフェムテック市場の拡大を加速させ、女性だけではなく皆が生きやすい世界をめざします。

fermata株式会社 Amina氏
株式会社大丸松坂屋百貨店 澤井 裕之氏、髙橋 知世氏
株式会社AZ 藤堂 ちどり氏