ものづくり

《講演録》中小企業こそ<和>ノベーション!~日本型イノベーション創出力と生産性を高めるヒント

2019.05.08

~事例~ デコトラ向けという新たな地平を切り開く素形材企業

素形材産業のスピン加工技術に強みを持つ企業の事例をご紹介します。この企業は、架装メーカーと共同してトラックの鉄の表面に加工を施し、平面なのに立体にしか見えないように仕立てる技術を開発されました。

加飾トラック、いわゆるデコトラのオーナーは、自分のトラックを誰のトラックよりも目立たせることを突き詰めている方々ですので、この加工技術は彼らに大変な好評を得ました。一般的には車体に出っ張りを作ると法律違反となりますが、平面への加工なので車検にも通り法律上の問題もありません。

この企業は自社のスピン加工技術を第三者に伝えるために、さまざまなサンプルを揃えています。「うちのスピン加工はすごいです」と口で言ってもなかなか伝わりません。広告業界やエンターテインメント業界のプランナーさんなどにサンプルを実際にみてもらい、新たな展開のきっかけをつかんでいます。

デコトラにスピン加工技術を施すような仕事が、いつもの納品先へのいつもの納品とは全く異なるワクワク感を現場に生み出したことは想像に難くないかと思います。しかし一方で、「そういう類の仕事は仮に高収益だとしても、そんなに多くはないのでは?」という疑問を抱かれるかもしれません。もちろんそうした面はあるかもしれませんが、今までとは違うニーズに応える取り組みをやっていくうちに、他からもお声がかかるだけでなく、間違いなく自社の技術力もあがり、現業の仕事もよい方向に変わっていくのです。

 
>>> <和>ノベーション実現に必要な7つの資質とは?

最後に、<和>ノベーションを進める上での心構えとして、備えておきたい7つの資質をご紹介します。

[1. 異質や違いを好む]
異なる環境に飛び込むと、これまでの経験や知識の違いなどから、悔しい思いや恥ずかしい思いをすることです。これを乗り越えることで、多様性を理解しうまく向き合えるようになります。

[2. 使いやすい能力・機能を持つ]
話を聞いてもらいたい相手にとって使いやすい能力や機能を持つと議論が盛り上がりやすくなります。

[3. 対話の場を温める]
相手の意見に水をかけてしまうと場がしらけてしまいます。とにかく場を温めることを意識してみましょう。お互いの能力を理解しようという雰囲気が高まり、能力の化学反応を期待できるようになります。

[4. ありものを使い倒す]
日本人は新しいものをイチから自分たちだけで仕上げることを志向しがちですが、まずは、ありものを組み合わせて商品を仕立ててみましょう。よりよいものを作りたいなら、後から新しい技術を足せばいいのです。なるべく早くお金を産むことが重要です。

[5. 顧客のマインドシェアを高める]
要は、顧客に自分たちを好きになってもらおうということです。自分たちの構想について顧客との対話を重ねることで「あれはどうなったの」「こういうものがあったら買うよ」といった顧客からの反応が得られるようになります。製品やサービスとして世に出る前から、顧客がそれを買いたくなるような仕掛けを作っていきましょう。

[6. 既存のルールを一旦忘れる]
一見無謀と思うことであっても「これが生み出す新しい価値を喜んでくれる人がたくさんいるはずだ」と思えるのであればやってしまいましょう。

[7. 感性を信じる]
顧客がお金を払うかどうかは理性よりも感性によるところが大きいです。自分がピンとくるかどうかを大事にしましょう。

今日お話したことの中に、「これなら自分たちにもできる」と感じていただけたものがあったのではないでしょうか。皆さんが少しでも明るい将来展望を描く一助になれば幸いです。

(文/飯尾英晃)

 

長島 聡氏(株式会社ローランド・ベルガー 代表取締役社長)
早稲田大学理工学研究科博士課程修了後、早稲田大学理工学部助手、ローランド・ベルガーに参画。自動車、石油、化学、エネルギー、消費財などの製造業を中心として、グランドストラテジー、事業ロードマップ、チェンジマネジメント、現場のデジタル武装など数多くのプロジェクトを手がける。特に、近年はお客様起点の価値創出に注目して、日本企業の競争力・存在感を高めるための活動に従事。日本法人の代表取締役社長を務めながら、多くの企業のアドバイザーも務める。主な公職に、経済産業省「ロボット・産業機械分野における人工知能技術の適用可能性と実用化に関する調査研究会」委員、自動走行に係る官民協議会有識者委員など。著書に、「AI現場力」「日本型インダストリー4.0」(日本経済新聞出版社)がある。

株式会社ローランド・ベルガー

代表取締役社長

長島 聡氏

https://www.rolandberger.com/ja/