≪講演録≫逆境経営~山奥の地酒「獺祭(だっさい)」を世界に届ける逆転発想法~
世界に出ていく上においてどのように売っていけばよいのだろうか。普通は日本酒を売ろうとすると中国人経営の卸を通じてとなるのだが、これをやると叩かれてしょうがない。売ってください、買ってくださいなどと絶対に言ってはいけない。日本酒はどういうものなのかその個性を浮き彫りにして理解してもらいながら結果として日本酒を買ってもらう、売ってもらうという方法を私どもはとっている。お願いよりは教育が先だ。
フランスのシャモニーのホテルで毎年、1999年のソムリエの世界チャンピオンと一緒になって獺祭のセミナーを開いている。私どものメインターゲットはアメリカ、ヨーロッパで上位5%の所得層だ。価格の高い酒を、高い所得層を狙って売る。その層の人たちは日本人と非常に味覚が似ていて繊細で、日本酒の味を理解してくれている。
市場が縮小するときこそチャンス
今、酒蔵を新たに建て増している。来年の3月に完成する。生産能力は現在の1万7千石から5万石に増える。ところが山田錦が足りない。昨年の国内の山田錦生産量38万俵のうち4万3千俵を買わせてもらったと述べたが、兵庫県の全農に対してだけでも7万俵の発注を出していた。ただしふたを開けてみたら3万俵しか買えない。とにかく酒米が足りないのだ。
一方で、日本は食用の米は余っていて、年間800万トンの消費量があるけれど毎年8万トンずつ生産量は減っている。それなら代わりに山田錦を作ればいい。私は山田錦の年間生産量を60万俵まで押し上げたい。うちの新しい酒蔵が動き出すと5万石に対して単純計算で20万俵の山田錦が必要になる。日本の農家に与える影響は結構大きいはずだ。そういう意味でも私どもはぜひこれはやりぬきたい。
うちの酒蔵が伸びた理由を4つ挙げたが、もう一つ大きかったのは、日本酒の市場が縮んだことだ。業界が伸びるときに、負け組は絶対浮上できない。ただ、業界が縮めば市場が揺れ動く。そうなると私たち負け組にチャンスが出る。皆さんが所属しておられる業界が伸びている業界か縮んでいる業界がよくわからないが、もし自分たちが負け組だと思われているのであれば、業界の環境が悪ければ大きなチャンスだ。
(取材・文/山口裕史)