商品開発/新事業

≪講演録≫逆境経営~山奥の地酒「獺祭(だっさい)」を世界に届ける逆転発想法~

2014.12.17

ローテクの集合体で

生産体制について少しお話をしたい。杜氏を社員にすると、1週間に1、2日、年間で100日は休みを準備しなければいけない。当然、製造能力が落ちる。そこでそれまでは冬場に150日だけ酒を作っていたのが、200日、250日と増えていった。その後、年間を通して造る四季醸造になっていった。その結果何が起こったか。

一つは、常に一番よい状態、一番理想的な保存期間を持ったお酒をお客様にお届けすることができるようになった。もう一つは販売の増減に柔軟に対応できるようになった。

造り方では、市販の酒においてもガチンコ勝負をした。どういうことか。日本酒業界には全国新酒鑑評会という大きなコンテストがあって、杜氏にとってはそこで賞をもらうことが名誉になるから夜も寝ずに心血を注いで造る。でも販売するための普通のお酒は少し気楽に造る、というお約束があった。ところがわれわれは市販する酒においても本気で臨んだ。

そのために技術を個人のものにするのではなく会社全体で技術を持つように考えてきた。背中を見て覚えろとは言わず、ちゃんと言葉で部下に教えるよう社内で常に徹底している。

私どもの看板商品である「磨き2割3分」という商品は、原料米の山田錦の外側を77%削って使っている。業界の主流派の技術者の方からは「うちは技術的に優れているからそんなにコメを磨かなくてもいい酒はできる」と言われる。確かにそうだ。だけどもうちは技術がないからコメの磨きで補ってしまえと考えるわけだ。

灘、伏見にある大手酒造会社はビールのような建物の中で特大のタンクで酒を仕込んでいく。そうすると製造コスト的にも下がる。よく日本酒業界では、「大手は機械任せにして技術的にどうなのか」という人がいるが、実は大きなところで発酵させてコントロールするのにはものすごい技術がいる。技術だけで比べれば中小はやはり大手には絶対勝てないと私は思っている。

そこで旭酒造は何をやったか。建物はそれなりに大きくしてタンクはなるべく小さくした。手造りでやっている。ローテクの集合体だ。米を洗うのでも、普通に鍋と釜にちょっと毛が生えたぐらいの器具で洗っていく。普通はもっと複雑な機械で、高度な機械で洗っていく。手造りだと細菌汚染がすごく少ない。

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無駄、無理、ムラのない販売

販売の話をする。うちは東京市場に出て生き残った話はしたが、しかも売れる酒屋さんだけに販売している。例えば酒屋さんでよくあるのはお正月前に酒が売れるだろうといっぱい仕入れて正月明けて売れ残ったらたくさん返品されるということだ。返品が出るとコストがかかるため、品質もしくはコストを落としてお客さんからお金をもらわないと生き残れない。だからちゃんと賞味期限内に売っていただく。私の思う通りの販売の仕方、価格、量、期間に売らないとうちとは取引しませんよと平気で言っている。

「純米大吟醸50」という商品が一升瓶で2850円。酒造業界では「あの価格であの酒ができるのか」と言われる。でも、小売さんに対してものすごい低マージンを要求しているわけではない。むしろ一般的な酒造業界よりは少し厚いマージンを出している。では旭酒造が儲けなしでやっているかというとそんなことはない。旭酒造の粗利率は日本酒メーカーの全国平均より10%ぐらい高い。なぜなら製造と流通の間に無駄と、無理、ムラがないからだ。

小さい市場では資金を持っているほうが強い。私らのように金がなくて弱いところは小さい市場で戦ったら損だ。それよりも大きな市場でちょっとの売上げをとらせてもらうほうが絶対的に楽だ。この経験は骨身にしみている。東京市場の後、私は世界に出ていこうとしているというのはそれだからだ。

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旭酒造株式会社

代表取締役社長

桜井 博志氏

https://www.asahishuzo.ne.jp/