産創館トピックス/講演録

起業家精神が日本を変える ~世界で勝つ経営戦略を創り出せ!~

2013.01.26

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【第五部】

素直な人は成長角度がすごい

質問 徳重さんは、事業を展開した時点で1から100をつくる段階になっている、というお話でしたが、現時点で具体的にどんな人材を求めていらっしゃるのか。あるいは人材を見ていく中で見るポイントを教えてください。

徳重 一番大事にしているのは、まずは僕らが今掲げているビジョンにどこまで共感できるのかということです。そこがまずマスト要件です。過去の失敗事例で見ると、失敗してる会社っていうのは、足元がふらついてる。つまり、積み木を積み上げる時に土台が変な形になってたら崩れてしまう。そこの共通の志がすごく大事だと思ってます。

あと経験則でいうと、一つはやっぱり向上心。地頭が良くて向上心があってプラスアルファ伸びてる成長角度のヤツを見ると、共通してるのは素直さなんです。ウチの会社の若いヤツって結構一流大学みたいなのが多いから、まあ頭でっかち、起業家精神はあるんだけども、ロジック重視みたいなヤツも中にはいて、そういうタイプは最初は良くてもなかなか伸びない。だけど、最初はあんまりパッとしないヤツでも向上心はあって素直なヤツは、伸び率が45度とかね。すごいですよ。「3カ月無給でいいからやらせてください」って言うから、ちょっとやらせてみるけどそれでダメだったら断わろうと。半年間、僕は彼を怒り続けました。しばらく伸びなかったですが、半年後に一気に伸びた。彼の中で、僕の言ったいろんな線と線が繋がって、面になって立体になった感じでした。で、今彼はすごく頑張ってもらってるんで、本当に良かった。伸び率というか成長角度がすごく大事だと思ってます。

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起業家を尊敬しない日本

質問 お二人が思う中国像を知りたいのと、中国人とどういう風に関わっていったらいいのかということをお話していただけないでしょうか。

加藤 僕は中国大好きで、年に3、4回は行ってます。でも商売はしてません。アジア中でいろんな商売してるんですけど、自分の役員で参加してる会社も、中国で商売をするのは今のところ「待て」ということで待ってます。僕が決めてるんじゃなくて皆で相談して出ないようにしてます。僕はすごく中国って日本と似てる、と思ってます。その一番の理由は、なかなか外人に儲けさせてもらえないんです。例えば日本にいるとなかなか気が付かないと思うんですけど、日本ってものすごい外国人が商売しにくい国なんですね。会社つくったり、営業したり、人雇ったり、家や土地買うたりね。僕はすごく似たようなものを中国に感じていて。中国ってお金を使ってる分にはものすごく楽しいんですけど、中国の人を相手にお金儲けをしようとすると、途端にめちゃくちゃ難しくなるんです。でもそれって、外国人が日本をどう見てるかっていうこととすごく近くて。外国人って日本でお金を使うことが楽しいんですよ。でも日本人を相手に外国人がお金儲けするのはめっちゃ難しいんです。お金を使うのはやっぱり面白いので、今はとにかくお金ためて、お金持って、中国でお金使って、「ああ楽しい」と思ってますけどね(笑)。

徳重 僕たちの作業でいうと製造のところで、やっぱり品質管理は大変です。現地の人にちゃんとやってもらうのに非常に苦労しました。あと、コピー文化なんで、何か技術があるとか特許があるとかいうところは結構大変かもしれません。パートナーとして信用できる人がいれば、それはローカルの強みもあるので、うまくいくんじゃないかっていう感じがあります。でも国外にお金をだしにくい。
元々できなかったんだけど、法律が変わってできるようになったにもかかわらず日本人はなめられてるから彼らはいろいろ言ってくる。アメリカの会社には何も言わないんだけれども。簡単に言うと、日本人ももっとしっかりしろってことなんですね。
さっきグローバルな話がでましたので言っておきますけれども、加藤さんが「市場があるところでやれ」って言いましたが、僕は最初から世界市場と言って本当にやろうとしてて、ベトナムにもフィリピンでやろうとしています。あいつは頭がおかしいんじゃないのかみたいに基本的には思われるんだけれども(笑)。つまり僕たちだったらEVはアジアの方が圧倒的に早いし市場があると思うし、だからやってるっていう合理的な考え方なんです。なぜアップルが利益率30%と高いかって言うと、一つは台湾のフォックスコンが資本で中国の工場でつくっているからです。そういうふうに今、市場も製造も人もどこが最適なのかっていう発想は持たないといけない。

加藤 バイドゥの創業者、ロビン・リーさんとアリババ・タオバオグループの創業者、ジャック・マーさんは、中国の中学校の教科書の副読本に載っているぐらい有名な人で若者の憧れの対象なんですね。堀江さんが逮捕された後、拘留されている間に上場まで取り消しになって、会社も全部取り潰しになって、本人のいない所でいろんな人が勝手に売買していた。あおりを受けて楽天の三木谷さんがTBSを買収しようとしたら徹底的に抵抗されて、最後は銀行からも止められてやめた。この同じ年にこの中国の2人の経営者は資本市場に打って出るための人材とか特許とか資金とかすべてアメリカで調達していたんですね。それで本社を杭州とか北京とかに移して、今や国の英雄になっていますという話で、彼らは母国に凱旋した、イノベーションを生んだ人達としてウミガメって呼ばれているんです。日本に一番足りないものはこれだなと。海外で起業して成功する日本人ってよく考えたら一人も名前があがらんなと。ところが中国では、時を同じくしてこの二人が、同じようにウミガメとして大変尊敬されている。僕が今ウミガメヱヴァンジェリスト、ウミガメを啓蒙するっていう肩書で仕事をしているのは、こういう人たちを日本で作ろうということなんです。

本田 ちなみに僕の親戚は半分華僑やねん。僕の中国嫌いっていうのは、外国人を排除することも含めいわゆるルールを決める仕組みが嫌い。ただ、個人で見たときには優秀な奴はいっぱいいる。契約が決まらなくても、晩飯行こか、っていう付き合いができるっていう意味でいうと、そういうことを分けて考えられる力を持ってるし、それは逆に日本人が慣れていかなあかんところやと思う。
本社が大阪のエースコックは、エースコックベトナムという会社がありまして、そこは、23カ国に輸出しています。その中に、ドイツとかフランスも含まれる。つまり、どういうことかというと、エースコック本体は日本の市場を見て、日本で作ってきた。エースコックベトナムに行くといくらでもどこへでも海路で出荷できる、と。ということは、日本に直接関係なく作っていくことができる。しかも、日本の技術力、製造過程のプロセスを使ってやっていける。そういう意味で言うと、日本と中国という視点で見るよりも、先ほど言ったようにグローバルで見る視点がすごく重要やと思う。で、やっぱりその時にウミガメっていうさっきのコンセプトはすごい大事やと思います。

大事なのはチームワーク

質問 今市民団体で活動させてもらってるんですけれども、今僕たちが一緒に活動をしている学生を見ていると例えば男女で価値観が違いますし、女の人同士でも育った環境が違えばもちろん意見が対立する。それをチームにして1+1を2.5にしていくためにどういった方法を取っていけばいいのでしょうか。

徳重 何をめざすとかいうところで不一致が結構出るのがあって、つまり最初はみんな学生みたいなノリでやってていいんだけど、頑張ってなんとか飯食えるようになったら、次の段階で、もっと成長を志向するタイプと、いやもういいじゃないかというタイプと結構割れちゃうんですね。でそれっていろんなケースがあって、最初のビジョンのところの共鳴ってのが大きいんじゃないのかな。性格の不一致っていうのはちょっとわかんないけど、2つあるかもしれない。1つは僕たちは行動指針を定めてシリコンバレーカルチャーみたいなのを根付かせようとしてるんですけど、その行動指針は社員が入社した時から言ってる、カルチャーです。そこはまあ結構一致してると思ってます。でもう1つ不一致でいうと、ウチの社員の中には将来10年後には会社やりたいみたいなヤツもいるんです。つまり、個々人の力をつけたいっていうようなヤツもいるんです。それはウェルカムなんですが、ただあまりにも個人のほうが強くて、ときに個人と組織の方向軸が合わないときがある。つまり、プロ野球の選手でも仮に自分がホームラン打っても、そのときにチームが勝てなかったら、「今日は残念です」って言うじゃないですか。つまりチームの勝利とかね、チームの成長がまずあって、それで当然プロ野球は個人を成長させてるわけですよね。つまりチームワークが大事だっていうのを僕は言いたい。つまりウチの会社って個人の成長意欲が高いヤツが集まってるんだけど、逆にすごくチームワークが大事だというのは教育として言ってます。

加藤 僕は誰が偉い人かって決めることがすごい大事だと思っています。組織って結局、ヒエラルキーだと思ってるんですね。つまり序列とかが結構大事だということです。英会話学校のラングリッチの経営者は、そういう意味では社会から大きく外れてた人たちで、ひきこもり1人と、中学高校の同級生3人で会社をこしらえて。商売ごっこみたいな形で始めて、3分の1ずつ株を持って、3分の1ずつ代表権を持ってっていう、僕の考える組織から大きく逸脱してるデタラメな人たちだったんですけど(笑)。その人たちと知り合って、僕は役員に引きずりこまれて今一緒にやってます。ラングリッチは、その意味では最初序列がなかったので大変でしたが。今は役割をきれいにしました。株も2年かけてちゃんと整合性取れるようにしましたけど、大変でした。基本的には社長が一番株を持っているべきだ、一番命を懸けてる人が上に立つべきだと思っていて、一番お金持ってる人や一番年長者が社長になるというのが一番良くないと思っています。ビジョンを熱く語る人、この商売を通じてどういう世の中ができる、あるいはつくれる、あるいはしたいか、みたいなことがちゃんと喋れる人がリーダーであるべきだと思ってます。そうすると小異がいっぱい発生するんですけど、小異はどうでもよくて、大同の方向へ向かっていくんです。人間なんでどうしても細かいいさかいとかあるんですけど、それを蹴散らせるくらい組織にダイナミズムがあれば、細かい問題はなくなっていくんです。

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失敗から学べる人は強い

質問 今リーダー、社長のお話があって、組織の中で上に立つ人が重要だと思うんですけど、お二人ともいろんな経験の中で人を見てこられた中で、成功された方に共通してあった要素、トップに立つ方はこういうのが重要だなと思う点を一つ絞ってお伺いできればと。

加藤 ビジョナリーな人ですね。

徳重 やっぱりビジョンと、覚悟と、あとはやり続けるってことだよね。

質問 その素養としてこういう部分は備えてるなと感じた部分はありますでしょうか。

徳重 自分のケースもそうですし、周り見ててもそうですし、素養というよりいろいろ経験から学ぶというか、失敗ですよね、失敗して挫折してヘロヘロになって、もがきながら前に進んでいくみたいな。その経験が力になるし、信念になるし、みたいなのを僕は思ってます。そういう人って強いんですよね。逆に、失敗してない人のほうが僕は怖いんじゃないかな。経営者からしたら任せにくいですよね。つまりそれは身につけていくものだっていうことです。

加藤 楽天的なことですね。

60%OKならアクションしなさい

本田 では最後に、これ選択肢ですが①皆さんに対するメッセージ②どこでどう死にたいか、のどちらかの質問を選んでいただきそこに向かっていくビジョンはどうあるのかをお聞きしたいと思います。

徳重 僕のほうからはメッセージです。若い人の前で、よく学生の人に言ってるんですけど、言いたいことは、「60%OKだと思ったら、もうアクションしなさい、行動しなさい」ということなんですね。で、ここには2つの意味があります。1つは、不確実の時代だから、きちっとデータを取ってやったって100%、90%、80%なんてのはそうそう無理なわけですね。それよりもアクションしながら軌道修正する。だからそもそも軌道修正が入るんだよ、朝令暮改が入るんですよっていう前提のもとに、現場で出してみながら変えていくことのほうがはるかに重要で。そう思ったらアクションしやすいわけですよ。それが60の意味するところです。もう一つ60には意味があって、日本全体がこの10年間でもっとおかしくなってて、つまり、勝手に閉塞、自虐的になってしまっているわけです。僕はシリコンバレーに5年いて、そのあと中国やアジアに月に2週間ずつ行っていると、すごく違いがあって。日本人の感覚で60%っていうのは、同じ事象を見てアメリカ人は、僕の感覚では70%、東南アジアの人はもう80%で考えます。つまり日本人が60%いけるっていうのはグローバルスタンダードで言ったらもう70、80%だってことです。で、それをもってアクションしろってことです。

加藤 伸びてるところにぶら下がる、ってことですね。あとは皆さんができることとの差を詰めていけば、僕は道は拓けると思ってます。今たくさん「会社をつくるための場所」をつくってます。なぜかって言うと、もう僕は死ぬことを考えていて。死んで多くの人に『あの人こんな実績残したよね』みたいな形で思ってほしいなと思っているんです。今、死ぬ準備にどんどん入ってるので。葬式にたくさんの人に来てもらいたいので、いろんな会社を今矢継ぎ早につくってるんです。皆さんご存知だと思いますけど、会社って10年で9割ぐらい潰れるんです。3年で6割ぐらい潰れるんです。だから恐れちゃいかんのです。それよりも、リカバリーをする準備は楽天的であればできると思ってます。楽天的であって、ビジョンを見続ければ、ダメでもまた次やればいい。できるまでやり続ければいいんです。会社を今たくさんつくってるのも、もう6割くらいは3年でなくなるし、9割くらいは10年でなくなると思ってるから、いっぱいつくらないと残らない。僕の葬式に来てくれる人が少なくなってしまうと思ってるんで(笑)、大量につくって、まあどれかが当たればいいと思ってますね。

本田 じゃあ最後、まとめます。60%OKならアクションしたらいいやん、で修正かけてったらいいやん、と。これ僕はSmall PDCAって言ってます。小さくPDCAを回そう。すごいデカいことをドーンとやるんじゃなくて。実はザッカーバーグさんもfacebookで言ってます。「完璧なものをつくるより、納期を守れ」って。これはレコーディングをするプログラマーに対して言ってる言葉です。と同時に、それらのことってどっかで楽しさみたいなものを見ながらやってる楽観的な人が多いです。フランスにアランという哲学者がいて、その人は「悲観は情緒から由来し、楽観は意志に由来する」と言っています。つまり意志を持ってる人っていうのは楽観的になるわけです。今どんなに現状が厳しくても、あそこに行くぞって意志があるわけやから、つまりビジョンがあるから、楽観的になれるわけです。どんなに飯が食えなくてもですよ。つまり、世の中にはちゃんとそういう情報が溢れてるんです。

最後に私から皆さんへのメッセージを言います。既存のマスメディアに頼るよりfacebookという自分のメディアで、インターパーソナルに、個人と個人が相互に影響し合えるメディアをどんどん膨らまして、メディアをひっくり返しましょう。みなさんできることから始めてください。