この技が無ければ再現できなかった~鉄道模型メーカー社長とプレス職人がタッグを組んだ「超精密模型」
【小椋】初めての注文が年明けくらいでしたよね。それが出来上がって、田淵さんに持っていったときの、顔を忘れられないんですよ。もうね、車体をみるなり目がめっちゃキラキラして(笑)感極まって涙が出てくるような喜びがね。そういう様子を見ると我々も適当には絶対できないです。
【田淵】見たときは、本当にうれしくて(笑)この車両は他の阪急電車の車両と違って、堺筋線に乗り入れないといけないので実物は100mm広いんです。模型になると35mmなんですけど、これを再現した模型ってなかなかなくて。曲面の具合も見ればわかるので、これはお願いしてよかった!と思いました。そこは見たら一瞬でわかるんです。
【小椋】おかげ様で阪急に乗る時にはそこの曲面見ちゃいますよね。
【岩水】田淵さんから言われた時には、それぐらい違うの?って思ったんですけど、この扉の下側の曲面を見てみると、違うんですよね。私は車好きなんですけど、実際自分の車が模型になったとして、サイドシルのラインがおかしかったら気が付きますよね。そこは表現してあげたくて、わざわざマシニングで金型を別に作りました。
【小椋】そういうところは田淵さんと岩水は似ているでしょうね。
【田淵】ネットでみた方も写真を見てわかるみたいで、写真で判断して購入されているんですよね。鉄道関係に勤める方からも「こんな模型みたことない」っていう感動の声を頂いてすごく嬉しかった。
【小椋】穴とかもね、天井にたくさん空けているんですけど、レーザーだからここまで細かい穴が開けられたんですよ。
【田淵】従来の金属加工だとボール盤で穴開けしないといけないんですが、豊里金属さんだとレーザーで穴開けができたので、細かい穴を寸法通りに開けられました。他社のキットの中には自分で穴開けをするものもあるんですけど、7両編成とかになると何十も穴を開けないといけない。相当な労力になってしまうんです。今回のモデルでは穴を開けてあるので、そこはこの価格ではなかなかできない仕様なんです。
―――――――今後の展開
【田淵】ほかにもいろいろなバリエーションで編成や車両を増やしていきたいと思っています。
【江口】5年後、10年後はどんなビジョンをお持ちですか?
【田淵】大手のメーカーでも、創業者の方はモデルにこだわりがあったと思うんですが、その後会社が大きくなるにつれて、品質を少し落としてビジネスとして回っていく製品づくりをして行くと思うんですよ。でも、僕の場合は1つの車両に徹底的にこだわりたい。なので、品質をさらに追求していきたいなって思っています。
例えばつり革とか座席とか、内装も再現できるようにしていきたい。実物も1両ごとに個体差があるんですが、そういった1両1両の違いも作り込んでいけるようにしたいんです。こういうモデルを作って楽しむ方はこれから少なくなっていくと思うので、再現度を突き詰めていかないと、ニーズをつかめないんですよね。
【小椋】さらに上をめざしていかれるんですね。僕らとしてはありがたいことですね。
【田淵】阪急電鉄に限らずほかにもいろいろな車両を徹底的に再現していきたいなと思います。最近はデジタルのアプリなどサービス提供も多いですが、こうやって実際に設計したものが形になった時の喜びはたまらないですよね。材料が「もの」になったときの嬉しさが違うと思うんですよね。
【小椋】次のお客様もすでにお話を頂いているみたいで、引き合いもすごいですよね。今後の展開が気になります。
【田淵】海外の模型事情は日本と違っていて、金属でこだわった模型っていうのが向こうはないので、今後は向こうの電車に関しても勉強していこうかと思います。ニューヨークの地下鉄なんかも面白いかな。
模型雑誌は車も電車も一通り目を通して、メーカーがどんな工法で作っているのかも見ています。その中で自分も使える技術をピックアップして活用していこうかと思っています。
(取材・文/大阪産業創造館 ものづくり支援チームプランナー 江口 幸太)