この技が無ければ再現できなかった~鉄道模型メーカー社長とプレス職人がタッグを組んだ「超精密模型」
【江口】ほかの部分も紆余曲折あったとお聞きしました。
【田淵】これが阪急から提供して頂いた図面なんですが、これをもとに自分でCADを使って模型用に全て図面を起こしたんです。
【小椋】これをデータ化して全部CADにするって、簡単におっしゃいますけど、そうとうな苦労ですよね。我々が作らせてもらったのは車体ですけど、床下にもいろんな部品がありますし。総点数はどのくらいなんです?
【田淵】1両で200点くらいの部品数ですね。
【小椋】そんなこと一般の人じゃとてもとてもできないですよ(笑)。
【田淵】普通の模型のメーカーでもなかなか採算が合わないみたいですね。でも、そこまでこだわるから皆さんに選んでもらえるんだと思っています。安かろう悪かろうはいくらでもありますけど、そうなると価格競争になってしまう。
【小椋】そこって金属加工する僕らと似ていて、同業の方でもコロナ禍で仕事がなく苦労されています。でもうちはあまり影響なく仕事ができている。それって値段の競争じゃなくて、うちだけしかできない仕事があるから。他社が嫌がるようなものは値段を下げられないので、そういうものを積極的に挑戦していくっていうのは田淵さんのビジネスと同じなんですよね。
【田淵】みなさん持っている機械は同じなんですよね。機械を使う人材が違ったり、やろうとしなかったり、そういう部分で違いが出てくる。模型メーカーでも自社設備がある所もありますが、なかなかこの車両ディティールを再現しているのは見ないんです。コストの問題なんでしょうね。
【小椋】最初、田淵さんはめっちゃ苦労されていましたね。一番最初に田淵さんに来てもらって作りたいものの説明を受けたときにすごく驚きました。僕は面白いと思いましたが。
【岩水】最初面白そうやなって思いましたね。そこまでこだわっているからうちもやっていないといけないって。
【小椋】よく勉強されていますよね。本当に。板金に対してもそうですし、キャスティングやエッチングもそうですけど、普通の企業さんで設計をされている方でも、田淵さんくらいに加工方法を知っている方はなかなかいないですよ。
【田淵】昔から、実物の車両を見てなんの工法でどんな材質であれば一番リアルに再現できるのか考えていて、車体は真鍮のプレスじゃなきゃいけないとか、キャストであれば再現する部分の厚みなども考えて材質を決めたんです。
【岩水】そういう中でも「キャストってこんなもんや」で終わらずにもっと再現できるように上へ上へと突き詰めて考えているのがすごい。途中であきらめていたらこのディティールは無理だったと思う。
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