この技が無ければ再現できなかった~鉄道模型メーカー社長とプレス職人がタッグを組んだ「超精密模型」
―――――――「鉄道模型メーカー」で起業した経緯
【小椋】大阪産業創造館 江口さんから田淵さんの会社のことを紹介されたときに我々が最初に思ったのは、電車の模型だけで会社を立ち上げたってホンマに大丈夫なん?って(笑)。失礼な話ですけど、思っちゃたんです。
【田淵】僕も前職の企業を辞めたときに、「本当に大丈夫なのか自分」って思いましたね。でも在職中から、いつか起業する時のためにCADを自分で学んでいたし、設計も進めていたんです。ちょうど3Dプリンタの技術も進んできて、鉄道模型の床下機器(電車の下側についている細かい部品)も再現できるようになってきた。それで「起業いけるんちゃうか?」って。
あとは、個人事業主で会社を辞めずにできないかと考えていたんですけど、阪急電鉄さんと許諾のやりとりをする上で、法人化する必要に迫られて起業に踏み切りました。
【江口】確かに、どんな会社に所属していたとしても個人事業主なら一個人扱いになりますよね。
【田淵】あとは、ここまで精密な模型ができたのに個人でやってるだけではもったいないな、という気持ちもありました。
【小椋】なかなか夢で独立するってできないことじゃないですか。すごいですよね。
【田淵】本当に昔からずっとこの仕事がしたくて、お金をためて勉強もしていました。
【小椋】車も手放して事業資金にしたんですよね。
【田淵】愛車のローバーミニも……はい。車も好きでしたが、電車が一番好きでしたので。
―――――――試作での苦労
【小椋】それで実際試作をうちでしてもらって、水切りと下の部分の曲げをこだわっていらっしゃってね。
【岩水】再現する側からすると、ここの車体下側の立ち上がりが難しいんですよ。曲線の立ち上がりが低いので金型に乗らない。他の工法も考えたけど、手で調整するしかなかった。
【田淵】他社にはできなかった。模型専門メーカーでも再現できないんです。豊里金属さんはレーザー加工もできるので、レーザーと曲げを併用して製作していただけたのが一番大きかったですね。
【小椋】部品も色々見せてもらったんですが、全体の完成度を見る上で、車体の成形がやっぱり一番大切みたいで、ほんのわずかな屋根の曲面が重要なんですよね?電車のことを知らない我々が見てもよくわからないですが、見る人が見たら全然違うのが分かるって田淵さんこだわっていましたよね。
【田淵】やっぱり買ってくださる方はみんなそこに魅力を感じてくださっているみたいで、再現できたのは良かったですね。
【小椋】そこの表現ができたのも、設計のデータの処理は一級技能士の岩水がやっていくんですが、試作金型を設計しているうちならではの製作方法がマッチしたのかなって思います。生産数も何万個って作るわけじゃないので、生産数量についてもうちの守備範囲だったし、今後の少量生産にも合っていたんですよね。
【岩水】形状に対して柔軟に対応できるっていうのがうちの強みなので、この下の曲面に関しても当初は普通の金型でやろうかって思っていたんですが、そこは個別に金型を作って田淵さんのこだわりに対する情熱に応えさせてもらったんです。なんとか再現したかった。
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