ものづくり

《講演録》マツダデザインの挑戦

2020.01.23

 
▶光で表現する次世代のマツダブランド

現在、マツダブランドをもうひとつ上のレベルに押し上げたいという思いで活動しています。魂動デザインを光の移ろいによって表現することです。クルマに写り込む光やリフレクションをいかに正確に制御してつくりこむかが鍵となります。

 
なぜ光なのか。キーワードは自然体、生命観、日本の美意識です。当たり前ですがクルマは自ら動きません。

しかし、周りの環境が写り込むことによって、いろいろな表情を見せ、風景と一体になる。リフレクションを動かすことでフォルムが変化し、まるで生きているように見える。それが自然体であり、生命観です。

 
そして日本の美意識。ヨーロッパのブランドはその国固有の美意識を体現したものが多いです。日本にも日本固有のデザイン様式が必要で、そのひとつが光のカーブです。光のカーブは刀のように和の凛とした独特の緊張感を与えます。

 
▶美しさには力がある

グローバル企業である限り、われわれが相手にするのは世界です。世界の中で存在感を示し続けなければならない。

クルマの歴史は120年を越え、分岐点にあります。ただ、日本と海外では分岐点の解釈が違います。日本は120年たったからもう変わらなくてはとモビリティ化を促進しています。一方、ヨーロッパでは120年も続いたのだから伝統を大事にしたいという感覚がクルマ文化をつくっています。

 
私は技術とイノベーションだけで未来はつくれず、伝統ある文化を守っていかなければならないと思っています。

クルマは人を感動させる美しい道具であり、美しさには力があります。カーデザイナーとしてできることはまだたくさんあると思っています。

 
(文/荒木さと子)

 
前田 育男氏(マツダ株式会社 常務執行役員)
京都工芸繊維大学卒業後、1982年東洋工業(現マツダ)入社。横浜、カリフォルニアのデザインスタジオを経て、本社デザインスタジオにて量産デザイン開発に従事。チーフデザイナーとして、同社が世界で唯一実用化に成功したロータリーエンジン搭載の「RX‐8」や、ワールド・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した3代目「デミオ」を手がける。2009年4月、デザイン本部長就任。マツダブランドの全体を貫くデザインコンセプト「魂動」を立ち上げ、車だけでなく、販売店の一新やモーターショー会場の監修なども統括して行う。2016年より常務執行役員デザイン・ブランドスタイル担当に就任。2017年から2018年にかけて、経済産業省と特許庁が設置した「産業競争力とデザインを考える研究会」の委員を務め、2019年4月11日、「知財功労賞」(特許庁長官表彰)を受賞。

マツダ株式会社

常務執行役員

前田 育男氏

https://www.mazda.com