《講演録》マツダデザインの挑戦
▶クルマに命を吹き込む「魂動」デザイン
活動の鍵となるものを紹介しましょう。原点はフォルムです。マツダデザインの考え方をシンプルな形に置き換える。そこに約1年をかけました。
マツダのものづくりの原点は人馬一体という哲学です。ドライバーとクルマを、乗り手と馬の関係に近づける。阿吽の呼吸、一心同体と表現されるように、クルマと人は心の通った関係でありたい。それがマツダのものづくりの根底にあります。
そしてそれを「魂動」デザインと呼んでいます。魂の動き。ものに命を吹き込むこと。非常に抽象的なテーマなので、まずはカタチにしてみようと野生動物を研究しました。
命があり美しい形をした野生動物の特徴を抜き出してエッセンスだけを具象化する。模写と抽象化のサイクルを何度も繰り返すのです。
野生動物の美しいフォルムはどこから生まれるのか。重視したのは背骨の存在です。野生動物の安定した動きをつくっているのは背骨。クルマの骨格に背骨はありませんが、われわれは常に背骨を意識してクルマの骨格づくりを行っています。
その研究と活動を経てつくったのが「アテンザ」です。以降、そのスタイルを進化させてきました。
▶手づくりにこだわり、深みを出す
もうひとつ、こだわっているのが手づくりです。時間と手間をかけること。もちろん企業ですから効率化はめざしますが、効率と反対の手法を取ることで効率化以上の価値を生み出すことを重視しています。
最近のデザイン開発はデジタルで行われることが圧倒的に多いです。デジタルは0か1の数字の集合体。その間がなく、単純な立体構成になっています。
それが悪いわけではなく、デジタルはファジーな部分がないので繊細さや微妙な変化をつくりこむには苦手なツールです。
反対に人の手づくりは0か1にぴたりとあてはめるのが苦手です。一方で割り切れないファジーな部分が多く、あたたかみや味わいや深みにつながっていると私は思っています。
手間をかけて深みを出すことの意義をきちんと理解して、簡単にデザインしないこと。それがわれわれのポリシーです。
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