《講演録》ビジネスを変える「コトバのチカラ」~お客さまの心を動かす「11のスイッチ」とは?~ [3]
《講演録》2019年6月3日(月) 開催
【トークライブ!】ビジネスを変える「コトバのチカラ」
話し手:間宮 洋介氏(株式会社 Que 代表取締役CEO)
聞き手:山崎 大祐氏(株式会社マザーハウス 取締役副社長)
モノやサービスがあふれ、その価値が伝わりにくくなっている現在。
そんな時代に自社の商品やサービスをマーケットにいかに発信し、いかにお客さまに好きになっていただくか――キリン・一番搾りのリブランドを成功させるなど、市場で数々のヒットを生み出してきた株式会社Queの間宮洋介氏は「言葉の力」が大切といいます。
「言葉の力」を活かしてチームを動かし、 お客さまの心のスイッチを押し、ビジネスを差別化してマーケットでの評価を高める――そのために重要な「コトバのセオリー」に、モノづくりメーカーとして国内外に展開するベンチャー企業・マザーハウス取締役副社長の山崎大祐氏が迫る。
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《講演録》ビジネスを変える「コトバのチカラ」~お客さまの心を動かす「11のスイッチ」とは?~[1]
《講演録》ビジネスを変える「コトバのチカラ」~お客さまの心を動かす「11のスイッチ」とは?~[2]
―― 「問い」を立てる大切さ
ひとつは「反射」のスイッチです。スマホ時代の現在、知りたいことがあればスマホに手を伸ばし、問いかければ答えをすぐ見つけられます。そのとき、人のアタマはピクリとも動いていないそうです。
人は脳が動かなければ心が動かないと私は思っています。そして心が動かなければ、人は課題解決に向かって動いてはくれません。
では人に頭を使ってもらうためのコツは何なのか。
それは「問い」を与えることです。目の前に問いを出されると人は頭が急に動き出し、課題について考えはじめます。
たとえば私が手がけたチューハイの広告では、2種類のフレーバーを消費者に選んでもらう主旨の企画を行いました。「A味とB味、あなたはどっち?」とテレビCMで問われると、「自分はA味かな……」と無意識に考え、店頭で思わず手に取ってしまう。一連のシリーズ広告を展開した結果、販売は好調に推移することになりました。
つまり「どっち?」と問うことでマーケットが生まれたのです。
これをビジネスに置き換えた場合、問い方のバリエーションは広告以上に豊富だと思います。とくに仲間内で共有すべきは、ゴール以上に問いだと感じます。「俺はこう思うけど、君はどうだろう?」 そうやって常日頃から「問い」というかたちで課題感を共有することで、結果としてめざすゴールも同じになっていくはずです。きれいな言葉、上手な言葉は必要ありません。
―― 「挑戦」のスイッチを押し、「よしやってやろう」を引き出す
もうひとつは「挑戦」のスイッチです。ハードルが可視化されると超えてみたくなるという話です。人は、目の前に提示された問いにほどよい挑戦が含まれていると、よりいっそう解いてみたくなると個人的に思っています。
たとえばグーグルは以前、謎の数式がデザインされた広告を展開しました。その数式を説いてURLを打ち込むと求人広告にたどり着くという設定です。解いてやろうという挑戦心と、実際に解ける知識がある人は、グーグルが求める人材――そんなメッセージが仕込まれているわけです。
このことをビジネスに置き換えた場合、答えが簡単に見いだせる〝思考停止状態〟の世の中だからこそ、現状に対する問いかけを言葉にしのばせることが大事だと思います。考えなくても済んでいる人たちに対して、「現状を変えてやろうと思わせる挑戦」をしのばせることで、能動的に説く気になってもらうのです。
「何をしなさい」ではなく、「よし自分で解いてやろう」という内発的な動機づけ。「よし、やってやろうじゃないか」というモチベーションを高めるスイッチが「挑戦」なのです。
―― 「反射」と「挑戦」、そして「偏愛」
以上のように、11のスイッチの中でも経営者の方にとくに覚えておいてもらいたいのは「反射」と「挑戦」です。経営者の皆さんは忙しいので、言葉を一方的に投げつけるだけでは相手になかなか伝わらず、能動的に動いてもらうことはできません。「反射」と「挑戦」のスイッチを参考に、どうやって自発性を持たせるかという視点で余白のデザインをつくってあげるのがいいのではと思います。
加えてもうひとつあげるならば「偏愛」です。たとえばアスパラガスがめちゃくちゃ好きな人がアスパラ愛について語りまくることで、何となくアスパラガスがおいしそうに思えてくる、そんな広告がありました。
情報があふれる時代には、情報の優劣をいかにつけるかが大事です。そのとき、偏愛の人の猛烈な「好き」や「いいね」が世の中を突き動かすのです。
ビジネスの視点で偏愛のスイッチを活かすとき、まずご自身が「偏愛の人」になってほしいと思います。経営者自身が自社の企業ビジョンに対して偏愛すべきです。厳しい経営環境の中でも自分の事業を愛し、信じ抜く。そうすると周りに「偏愛の仲間」が集まってきます。
そうやって自ら偏愛を語り、仲間ができてくると、その仲間たちが次の賛同者を連れてきてくれるようになります。その先に世の中があり、モノやサービスがマーケットで認められるようになるでしょう。
(文/高橋武男)
間宮洋介氏(株式会社 Que 代表取締役CEO)https://que.tokyo/
1994年電通入社。2年間のマーケティング局、16年間の営業局勤務を経て、2012年よりCDC(クリエイティブ・デザイン・センター)。「戦略とは、課題の言語化である」を戦略立案の芯に据え、戦略から表現まで統合し、あらゆる課題解決業務に従事。関わる領域は、広告コミュニケーションにとどまらず、事業系ソリューション、中長期経営計画立案、インナーのモチベーション・デザインなど多岐にわたる。2017年に電通より独立。2018年 株式会社 Que 代表取締役CEOに就任。 主な仕事として、キリンビール「一番搾り」「氷結」キリンビバレッジ「午後の紅茶」「FIRE」におけるコミュニケーション・デザイン。トヨタ自動車「AQUA」「MIRAI」「PRIUS PHV」「C-HR」のコミュニケーション戦略、NTTドコモ「2020 東京オリンピック協賛プロジェクト」、プレナス「ほっともっと」ブランディング・ディレクション、日清食品「カップヌードル」「UFO」におけるキャンペーン・プランニングおよび、フロンテッジにおける事業コンサルテーションなど。
山崎大祐氏(株式会社マザーハウス 取締役副社長)https://www.mother-house.jp/
1980年東京生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。大学在学中にベトナムでストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮影したことをきっかけに、途上国の貧困・開発問題に興味を持つ。2003年、ゴールドマン・サックス証券に入社。エコノミストとして、日本およびアジア経済の分析・調査・研究や各投資家への金融商品の提案を行う。2007年3月、同社を退社。大学時代の竹中平蔵ゼミの1年後輩だった山口絵理子氏が始めたマザーハウスの経営への参画を決意し、同年7月に副社長に就任。マーケティング・生産の両サイドを管理する。マザーハウスは途上国でバッグやジュエリー、シャツなどを生産。国内29店舗、香港および台湾8店舗で販売している(2018年7月現在)。