起業・ベンチャー

スズムシやマツムシなど「鳴く虫」の音色にほれ、趣味を仕事にした鳴く虫研究社 後藤啓さん

2018.07.25

1年半前から鳴く虫販売専業に

― ちゃんと商売として成り立っているんですか?

本を出して知られるようになったことに加えて、メディアでも取り上げられるようになって、売上げは着実に増えています。この商売だけでやっていけるめどがついたので、2016年夏で百貨店催事の商売はやめて、2017年1月から鳴く虫の販売に専念しています。なんとか食べられるほどにはなっています。

それでもまさか捕った虫を売って商売ができるなんて夢にも思わなかったですね。やっぱりインターネットを使って販売できるのが大きい。もし店を持ってやるとしたらそれだけの元手が必要やからなかなか難しいし、お客さんの方から私のことを見つけて買いに来てくれるわけですから。ありがたい時代です。自分で何でも決断して、前に進んでいけることにやりがいを感じています。

鳴く虫を愛でる日本人の感性を大切に

― それにしても日本人は鳴く虫が好きなのですね。

鳴く虫を愛でる文化は奈良時代にまで遡ります。平安時代になると貴族が飼うようになり、鳴く虫を野に放って鳴き声を聞きながら宴をすることが流行りました。そして江戸時代には一大ブームが起こり、庶民の間で鳴く虫を飼うようになり、私のような虫売りがだいぶ現れたようです。それが明治時代まで続きました。

興味深いのは、江戸時代の文献を見ると当時の人気種と現代の人気種はほとんど一緒やということです。スズムシ、マツムシ、クツワムシ、キリギリス、クサヒバリ、それに鳴く虫の女王と呼ばれた邯鄲(カンタン)、それとカワラスズかヤマトヒバリに当たるクロヒバリの6種類です。感性は今も昔も変わらないということですね。その後戦争で虫売りの問屋がやられたり、戦後になると娯楽が多様化して、今では一部の人の楽しみになってしまっています。

世界中に鳴く虫はいるのにこれを愛でる文化を持っているのは日本と中国だけ。言葉を左脳で聞く日本人と、右脳で聞く欧米人の違いという説もありますが、まだまだ研究の余地ありですね。でもお隣りの韓国では鳴く虫を愛でる文化はないそうですから、やはり日本人には独特の感性が備わっているのかもしれません。ヒバリ、ウグイスの鳴き声で春の訪れを知り、セミの鳴き声で夏の盛りを感じ、スズムシの鳴き声で秋の到来に気付く。幸せなことやと思います。

鳴き声だけでなく動きも楽しんで

― 鳴く虫の魅力は。

鳴き声のきれいさはもちろんですが、鳴いている仕草もたまりません。羽根の両面にやすりがついてこれをこすって音を鳴らすのですが、コオロギは羽根を震わせるだけでなく、体を前後に揺らして鳴きます。そしてアゴ(頭の部分の口元)で地面を当てるタッピングという動作も伴います。それはもう躍動感があります。オスがメスを引き寄せようとして鳴いているのですが、メスは必ず寄ってきます。吸引力ある。子孫を残して繁栄していくためにえらいもんですわ。まあ、僕自身も吸引されているわけですけどね。タッピングのことなんてだれも研究していないんです。コロギスは、鳴かずにタッピングだけをします。これもメスを引き寄せるためなんです。

私はいつもキンヒバリを枕元に置いてます。このリ、リ、リ、リ、リーンが大好きでしてね。音色を聞きながら眠りに落ちています。

キンヒバリの鳴き声。後藤氏「これキンヒバリ、最後ひっぱってるでしょ?」

次ページ >>> 解明したいことがまだまだたくさんある。

鳴く虫研究社

後藤 啓氏

http://nakumushi.jp/netshop/

事業内容/鳴く虫販売専門店